いざ、南三陸のおすばで祭りへ
入江亮子(日本料理家)
2022.2.4
南三陸に何やら“肴の祭り”があるらしいとの噂を聞きつけ、酒肴部部員として一度は行ってこないと! と、年の瀬も迫った12月29日その祭りに参加してきました。
酒肴部だもの……
祭りの名は「おばすて祭り」。む? 私を捨てる気か? と一瞬冷や汗がでましたが、よく読めば「おすばで祭り」。“おすばで”とは三陸沿岸地域の方言で「酒肴」のことなのでした。
世の中にはいろんなお祭りがありますけれども、酒肴に特化した祭りは、ここ以外聞いたことがありません。なお、この祭りは、踊ったり、神輿奉納というのではなくて“市”です。
水産物の振興及びPRと、正月料理の食材に地元の海、山、商工の生産者たちが生産した産品を地元で消費してほしいという地産地消を目的に、1991年から始められました。2011年の東日本大震災の年も、年末行われたそうです。その時から「志津川湾おすばで祭り福興市」という名で開催され、会場も志津川仮設魚市場となりました。
開始は朝7時半から! 宿の方に「早くいかないとよいものは売り切れてしまうよ!」と聞き、ならばと朝イチで伺うと、すでにかなりの人が……。以前は9時からだったそうですが、年の瀬ということもあり、「早めによいものを手に入れ、帰っておせちの準備をしたい」ニーズに応えて7時半からのスタートになったそうです。
どんな酒肴が待っていたのか!?
さてさて会場に入りますと、まずは海苔軍団のお出迎え。3パックで1080円なんて安いーと飛びつきそうになる気持ちを抑え、帰りに買わせていただくお約束をし、試食だけにとどめます。すでに海苔1口で朝から日本酒をいただきたい気持ちがあふれます。
隣は牡蛎! 大ぶりの殻付き牡蛎が10個で1000円っていいのでしょうか。さらに進むと白い発泡スチロールの箱が積み上げられており、人々が群がっています。びんちょうや本鮪たちの福袋ならぬ福箱です。
そして、活けの鮑が500g5000円! 輸入品でも100g1300円前後しますので、かなりのお得感です。殻付きの大きな帆立も1000円!!! だんだんこの辺になってくると安さに慣れてきます。
見落としそうになりましたが、激レア食材「つくも蟹」も発見! 足が速く、ほとんど出回らない握りこぶし程度の小さい蟹ですが、体のわりにカニ味噌部分が多く、この蟹の味噌汁の味を思い出しただけでごはん3杯はいけるというもの。
海鼠や練り物、おもちなど、おせち材料も充実でした。ピンクのなるとにロックオンして、購入したのは言うまでもありません。この辺ではこちらのほうがポピュラーとか。ほかにも味噌、醤油といった地元製造の調味料、漬物、手作り蒟蒻、お野菜などもそろっていましたよ。
南三陸の蛸がおいしいわけ
そして真打登場なグルメ蛸(勝手に命名)!
ここ数年、蛸は世界的に不漁かつ、需要は伸びている関係でびっくりするほど高騰を続けていますが、語呂合わせで「多幸」や足八本が「末広がり」ということで、おせちには欠かせませんよね。
南三陸の蛸は、本当に特別です。前日、南三陸ワイナリーでいただいた蛸があまりにおいしかったので、地元の方にそのおいしさを伺うと、なんと青柳やら鮑を餌にしているとか。道理でですね。
かつては飲食スペースがありましたが、コロナ対策でテイクアウトのみとなりました。地元の志津川高校商学部ではタコシチューを。ほかには牡蛎丼、漁師丼、蛸おでんや牡蛎のバター焼きなど、たまらないラインナップでした。またいつかその場で生牡蠣などをつるっとすすりたいもの。
蛸を使った簡単なおつまみ
おすばで祭りでしこたま買い込み、保冷剤をしっかと入れて、保冷カートで猛ダッシュで帰宅して、さっそく蛸をいただくことに。ただ切って和えるだけなので2、3分。日本料理は食材をあまりにも去勢しすぎていたのではないかという自戒もあり、最近は、どれだけ合う食材同士を組み合わせて互いのポテンシャルを引き出すかということに重点をおいて作っています。
蛸の芹和え
鮑を餌にしたグルメ蛸(勝手に命名)をスライス、芹も同じくらいに切って、オリーブオイルをまとわせます。ちょいフルーティで少しピリッとした刺激のあるオリーブオイルだとなおいいです。塩や胡椒は必要なし。好みで柚子など柑橘系果汁をポタリ。味が〆るだけでなく、酸味が加わると味に深みももたらします。
これに南三陸の寒磯のりを入れた熱燗できゅーっと。はは、極楽極楽。
入江亮子(いりえ りょうこ)
懐石料理「温石会」主宰。四季をいかした懐石料理・江戸料理・郷土料理・精進料理・節句料理を教えるほか、茶懐石の出張、地域の特産品開発、メニュー開発などを行っている。日本酒利き酒師・日本酒学講師・酒匠として、日本酒と料理のマリアージュも数多く提案。カルチャースクールなどでの日本酒講座も多数。著書『八寸・強肴に困らない本』(世界文化社)は、2019年グルマン世界料理本大賞MATCHING FOOD&DRINK部門でグランプリ受賞。日本食文化会議理事、SSI(日本酒サービス研究会・酒匠研究会連合会)理事。
https://onjakukai.com
今宵は、このお酒で
気仙沼に広がる蒼い空、蒼い海の酒
蒼天伝 特別純米宮城県、気仙沼の酒蔵「男山本店」。国登録有形文化財の「男山本店店舗」は、2011年の東日本大震災の津波で流出し、3階建ての3階部分の外壁と屋根だけが残された。昭和5年に建築された店舗は、西洋風建築の意匠が施された特徴的な外観で、港町のランドマークとなっていたため、気仙沼の歴史的建造物の保存運動団体である「気仙沼風待ち復興検討会」の協力を得ながら、残った建築材料を利用して2020年に復元。地元では街の復興がまた一歩進んだ明るい出来事として大きく報道された。
県産の酒米「蔵の華」と酵母で造られる「蒼天伝 特別純米」は、四季折々に水揚げされる気仙沼の新鮮な海の幸のおいしさを引き立てる、繊細さと深いながらもすっきりとした後味を目指している。港町・気仙沼に広がる蒼い空、蒼い海の美しさを彷彿とさせる、爽やかで澄んだ香りと味わい。国内外のコンペティションでも高い評価を得ている銘酒だ。お問合せ
文・平出淑恵(酒サムライコーディネーター)
http://coopsachi.jp/
撮影・入江亮子