酒肴の時間

酒肴ペアリングのすすめ

山上昌弘(お飲みもの研究家)

2022.1.28

お酒と食べものは、ペアリング(組み合わせ)を少し意識するだけで、その愉しみ、口福が大きく広がります。今回、日本酒と相性のよいもの、相乗効果のあるもの、一つだけでは体験できない口福を生み出す組み合わせを「酒肴ペアリング」として紹介します。

ペアリングで酒も肴もさらにおいしく

日本酒は、純米酒、本醸造酒、(大)吟醸酒、生酒、スパークリング、貴醸酒、オーク樽熟成など、多種多様で、いただく温度帯も0℃から50℃超と幅広く、氷を入れたロックやソーダ割りなど新しい飲み方も提案されていて、とても懐の深いお酒です。

日本酒には、アルコール作用で香り豊かに感じさせながら、マスキング効果により魚貝類の生臭みを抑える働きがあります。極端に相性の悪い組み合わせは少なく、旨味を活かした料理ともよく合うため、気軽に様々な合わせ方ができます。

上手にペアリングすることで、酒も肴もさらにおいしくなります。ちなみにすべての人に対するペアリングの正解はなく、おいしいペアリングは無限にあります。合わないと思っても失敗ではなく面白いと考え、まずは自由に愉しみながら、どんどん酒肴ペアリングに挑戦してみましょう。

まずどのように愉しみたいのか?

1 歴史と伝統

同じ産地同士や、その土地に長く受け継がれる組み合わせ。その土地の伝統的な日本酒は、同じ地域の郷土料理や名物料理と相性がよいことも多く、その土地の愉しみ方を体験するという趣向。旬や季節感も意識するとなおよい。
例:土佐の地酒と酒盗(鰹の内臓の塩漬け)など
「酒の肴、高知の郷土料理から」参照


2 ストーリー

映画やドラマ、音楽などに登場する印象的なシーンや歌詞のイメージを再現したり、造り手のこだわりや提案による組み合わせを愉しむ趣向。
例:八代亜紀さんの名曲「舟唄」の歌詞、「ぬるめの燗と炙った烏賊」など。

3 香味の相乗効果

日本酒は基本的に米の甘味と旨味をしっかり含むお酒ですので、「甘じょっぱい&甘苦いは旨い理論」と、「旨味相乗効果」で、塩味や苦味、旨味の強い肴、アテにとてもよく合います。

なお、酒と肴を両方愉しむのに最も大切なのが、味わいの濃淡、個性など「味の強さ」を合わせることです。香りや味、口に入れた時のインパクト、余韻の強さなど、いろいろな要素はありますが、全体としてなんとなく同じ程度の「味の強さ」になるとよいでしょう。繊細な酒には繊細な味わいの肴、濃厚なものには濃厚なものというぐあいに。両方合わせてみた時、一方の味の印象や魅力が消えてしまったら、一方の味が強すぎるということ。酒の種類や温度を変えたり、味付けを工夫してみましょう。

そのうえで今回は以下の5つの酒肴ペアリング例を紹介します。外国人にもおすすめの、和洋合わせ技のペアリングを中心に。

和洋合わせ技のペアリング理論

1「甘じょっぱいは旨い理論」

生ハムチーズや、酒盗、いかの塩辛など塩味と旨味の強い肴には、米の甘旨味が豊かな純米酒などを。
例:クリームチーズ生ハム巻き&甘味とコクのある純米酒/刺身(オリーブオイル塩)&本醸造酒など

クリームチーズ生ハム巻きと純米酒。

2「甘苦いは旨い理論」

めざしなど旨苦みのある肴には、苦みとバランスのよい甘味を持つ本醸造などを。
例:焼きめざしのエキストラバージンオリーブオイルがけ&すっきり爽やかな甘みとキレのある味わいの本醸造酒/ビターチョコレート&甘口の酒など

焼きめざしと本醸造酒。めざしにオリーブ油をかけて。

3「似たもの同士理論」

全体的に色や風味の雰囲気が似ていたり、共通の成分が含まれていたりするもの同士を合わせて。繊細、すっきり、こってり、軽やかなど、色や香味表現が似ているものはお互いを引き立てあい、味わいの深みが増します。
例:パルミジャーノレッジャーノ(24か月熟成)&生もと(山廃)系純米酒のぬる燗/チョコレート&熟成酒/海鮮サラダ&スパークリング日本酒など

パルミジャーノと生もと系純米酒。淡い黄色の外観、強いうまみ、乳酸系の風味と成分、おだやかな熟成感など似ている要素が多い。ぬる燗にすることで、味の強さを合わせつつ、チーズが口の中で心地よく溶ける愉しみも生まれる。

4「名わき役理論」

主役をサポートするように酒を合わせる。一方の味の強さがやや控えめ、または、華やかな酒の香りを肴にまとわせて愉しむペアリング。
例:ボイル蟹のEXバージンオリーブオイル塩に、やや控えめな吟醸香と甘味のある純米吟醸酒/いぶりがっこクリームチーズ&樽酒/上生菓子&吟醸酒など

蟹と純米吟醸酒。華やかな吟醸香を甘味のある蟹肉にまとわせて愉しむ。

5「縁結び理論」

飲む酒を料理やソースに使用したり、似た要素を含む食材や相性のよい薬味、調味料を加えることで双方の縁を結ぶように距離を近づけます。
例:干し柿バター&やや甘味のある熟成酒/酒を少し垂らした醤油でいただく刺身&すっきりキレのある本醸造酒/からあげ柚子胡椒風味&キレのある本醸造酒など

干し柿バターと熟成酒。ともに熟成感があるのに加え、干し柿に発酵バターやチーズなど共通の乳酸系風味を加えることで日本酒との相性がさらによくなる。

日本酒の種類から肴を選ぶなら……。

日本酒の種類ごとの特徴と、合わせやすい肴をまとめました。

純米酒

原材料は米、米麹で造られ、米由来の風味や甘味、コクを感じる。濃い味つけと合わせやすい。なかでも生もと(または山廃)系は、乳酸発酵による酸味と香りがあり、力強い味わいで、乳酸発酵系の料理と合わせやすい。

本醸造酒

米、米麹にさらに醸造アルコールを加えることで、キレのある味わいとなり、幅広くいろいろな料理に合わせやすい。

吟醸・大吟醸酒

フルーティーな香りが特徴。華やかな香りを加えて愉しむペアリング。繊細でフルーティーな香りが邪魔にならない組み合わせがよい。吟醸香によっては生魚の香りとケンカすることもある。

熟成酒

熟成させた日本酒。ベースとなる日本酒も熟成方法もさまざま。樽熟ポートワインのような熟成香をもち、干した果物など熟成させた食材と相性がよい。

スパークリング日本酒

発泡性(炭酸)のある日本酒。ベースの酒により多種多様。口中リフレッシュ効果が高く、幅広くいろいろな料理に合わせやすい。

樽酒

木の樽で寝かせることで、木の香ただよう香り高い日本酒。個性的な香りを愉しみたい。

食べることは栄養を摂取することだけが目的はありません。おいしいと感じ、笑顔になることが心身の健康にとって効果的とも言われています。ぜひ自分の口元に届くまでの食ストーリーを想像しながら、ペアリングもちょっと意識して笑顔で食事を愉しみましょう。

山上昌弘(やまがみ まさひろ)

総合食品企業で酒・調味料の研究開発に従事後、飲料スペシャリストとして大学などでドリンク教育に携わる。(一社)ジャパンビアソムリエ協会会長、ソムリエ、国立農研機構講師、式正織部流茶道、日本茶インストラクター、ティーインストラクター、茶健康科学講師。著書に『知識ゼロからの日本茶入門』(幻冬舎)、『世界お茶の基本』(プラザ出版、製作監修)ほか。
teacha123@hotmail.com

今宵は、このお酒で。

  • 美食の町をつくる蔵元から
    満寿泉 富山県産山田錦100%使用 純米吟醸/満寿泉 純米大吟醸 土游野

    酒肴ペアリングにかけて、食にこだわり、美食の町をつくっている蔵元のお酒を紹介したい。「満寿泉(ますいずみ)」醸造元の桝田酒造店のホームページに「美味しいものを食べている人しか美味しい酒は造れない。私共は、美味求眞はもう一つのモットーと考えます」という一文を見ることができる。

    桝田酒造店は、かつて北前船の交易で栄えた富山県東岩瀬の中ほどに蔵を構えている。富山駅からライトレールといわれる路面電車で20分ほどの町だ。四代目当主、桝田敬次郎氏は、のちに「能登四天王」の一人として名を馳せる三盃幸一杜氏と共に、当時はハイリスクで一般的でなかった吟醸酒造りに取り組み、「吟醸の満寿泉」として名をあげた。

    現当主の桝田隆一郎氏は、その人柄と感性で、日本酒の海外進出や、様々な業界と日本酒とのコラボレーションを実現させてきた。彼が心血を注いでいるのが、蔵のある東岩瀬の町づくりだ。ここは訪れる度に楽しさと驚きを与えてくれる。

    取り壊される予定だった土蔵群や家屋を購入し、改修して、ガラス工芸、木工、陶芸などの若手作家の拠点をつくり、酒商をつくり、素晴らしい庭をもつカウンター割烹や日本酒の立ち飲み屋、星付きのフレンチにイタリアン、本場チェコ人によるクラフトビールを味わえるブルーパブまで誘致。まさに美食の町となった。市によりメイン通りの無電柱化も行なわれ、町並みの美しさも高まっている。

    「満寿泉 富山県産山田錦100%使用 純米吟醸」は、富山の米にこだわり、酒米の王様とも言われる山田錦を100%使用した贅沢な純米吟醸。富山平野は、北アルプス立山連峰の雪解け水が潤す、実り豊かな米どころだ。立山連峰の清々さを感じる。「満寿泉 純米大吟醸 土游野」は富山の料理人たちから一目置かれている農業集団「土遊野」が棚田で有機栽培した、伊勢神宮ゆかりのイセヒカリで醸したお酒。シルキーでしっとりとした味わい。

    お問合せ

    桝田酒造店HPhttp://www.masuizumi.co.jpTEL076-437-9916

文・平出淑恵(酒サムライコーディネーター)
http://coopsachi.jp/
撮影・板野賢治

撮影・板野賢治

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