高知の郷土料理 酒肴の時間

酒の肴、高知の郷土料理から

小島喜和(テーブルトップダイレクター・郷土食文化研究家)

2021.12.24

酒好きが多いと名高い高知人の宴会は、酒を酌み交わす流儀や酒の席での遊びも独特なら、酒の肴もまた個性的。「酒国・土佐」の食文化が息づいている。

高知流「おきゃく」のしきたり

冠婚葬祭、節句、厄払い、とたくさんの宴会の機会がある。一日に2か所の掛け持ちで参加することもある。大広間には主役の座るひな壇と直角にテーブルが何列も長くつなげてあり、テーブルを挟んで向い合せに座る。背中合わせの人との距離が近く、振り向いて酒を酌み交わす。

お祝いの席には樽酒も用意され、自宅の床の間あたりに5升の樽酒が置いてある光景も珍しくなかった。私が子供の頃は各家々で宴が催されたものだ。それを「おきゃく」と呼ぶ。「今夜はおきゃくやき」というと、どこかのおうちでの宴会があるということ。

高知流おきゃくのしきたりをご紹介しよう。 まず、献杯。これは目上の方に敬意を表す挨拶で、自分の盃とお銚子をもって挨拶に回る。まず自分の盃にお酒を注ぎ、飲み干してからその盃を目上の方に献上してお酒を注ぐ。

次に返杯。同じ盃で酒を酌み交わして交流を深める。話が尽きるまで返杯を繰り返す。お酒はコミュニケーションのツールなのである。宴席でお銚子を持った人がそこら中にいる。

そんなことを繰り返しながら席を移動するので、いつの間にか自分の席には誰かが座ってお隣の方と盛り上がり、そこへは戻れない状態になっている(笑)。当たり前の状況である。

冬を代表する高知の酒の肴

そんな酒とは切っても切れない高知の肴は。
まずは酒盗である。鰹の内臓を塩漬けした後、酒で洗って、味付けしたもの。これをそのまま、または酢洗いして食べる。酒の肴だけでなく子供のころからご飯のお供として食卓に上った、なじみの深いものだ。

酒盗
高知の酒文化に欠かせない「酒盗」。写真は高知の老舗料亭「得月楼」のもの。

次に鰹のはらんぼ。これは鰹の内臓をとった腹の部分で、一匹に一つしかない部位。塩をぱらりと振って炭火で焼き、ぎゅっと酢ミカンを搾っていただく。

同じくチチコ。鰹の心臓。これも焼いてさっとポン酢かお醤油に酢ミカンをかけていただく冬の味覚。

チチコ(鰹の心臓)
右上から左下へ、鰹はらんぼ塩焼き、チチコ煮つけ、ウツボのから揚げ、メヒカリのから揚げ。

そしてメヒカリの一日干し。高知のメヒカリは、土佐湾を望む高知市の小さな漁港、御畳瀬(みませ)でしか揚がらないといっても過言ではく、天日干しの光景は12月の風物詩だ。

それから「まついか」と呼ばれるスルメイカ。こちらも天日干しされている光景を見る。大きなイカをひらいて1枚の干物になっていて、さっと炙ってマヨネーズ醤油に七味をかけ、くるりと丸くなった熱々を裂きながら酒のお供にいただく。

最後に、お正月に高知県西部では必ず食べるウツボの干物。2cmくらいに切って素揚げにする。祖母からの年末の荷物に必ず入っていた懐かしい一品である。 今月は高知県西部、土佐清水市の漁港で産業祭があり、年末のアメ横のような人出だった。そこではウツボの開き一日干しが朝早くから飛ぶように売れていき、こちらの食文化を目の当たりにした。

皿鉢料理と宴会遊び

宴には皿鉢(さわち)料理がつきもので、直径50〜60cmもの大皿にあらゆる豪華なお料理が乗る。伊勢海老などが入った盛り合わせの皿鉢、たたきの皿鉢、お刺身の皿鉢が並ぶ。その中の葉蘭(ハラン)の細工も料理人の腕の見せ所である。

皿鉢料理
宴で振る舞われる皿鉢料理。山海の幸が豪快に盛り付けられる。

宴会の際はお土産の折がつく。その中の鯖の姿ずしは、翌日七輪で炙って焼き鯖ずしに。絶品である。その他、折の中の卵の巻きずし、ピンク色(原料のすり身が着色してある)の巻きずしは、翌日蒸して蒸し寿司になる。

焼き鯖ずし
鯖の姿ずしを焼き鯖ずしに。

高知人は「遊びながら酒を飲む」という高知の宴席でのお話を、この度高知市内の料亭「得月楼」さんに伺った。

得月楼さんの酒盗は2年から3年塩漬けした鰹の内臓を酒洗いし、その後秘伝の調味料に漬けているとのこと。さすがに市販のそれとは比べ物にならない旨さ。

昔は宴席での日本酒は全て熱燗だったとのこと。可杯(べくはい)と呼ばれる盃の話。ひょっとこ、天狗、おかめ、そらきゅうがある。ひょっとこは口のところに穴が開いているため押さえながら飲まなくてはならない。天狗は鼻の部分が長くてたっぷりとお酒が入る。おかめはほんの少しのお酒が入るくらいの浅い盃。そらきゅうは、逆円錐になった盃で飲み干さなければ置くことができない。

可杯(くべはい)
御座敷遊びで使われる盃「可杯(べくはい)」。

これらの杯を独楽と一緒にお盆にのせて、独楽をまわした先端が指した方向の方が可杯を選んで飲んでいくという遊び。
ひょっとこの穴を押さえながら飲むのはなかなか難しく、つい抑えた指を緩めてしまい、お酒がこぼれてしまうことしばしば。

次に菊の花。こちらはお盆の上におちょこが伏せて乗っている。その中に一つだけ菊の花が入ったものがある。「きくのはな〜」とうたいながらお盆の上のおちょこを順番に返していく。菊の花が出た時点で、何個おちょこが返っているかで、その方はその数のお酒を飲む。そんな遊びだ。酒の席が盛り上がること間違いなし。たくさんのおちょこが開いていることを喜ぶ高知の酒飲みたちだそうだ。

来高の際は、こんな遊びをぜひ体験していただきたい。

小島喜和(こじま きわ)

アメリカ・フランスの製菓学校にて製菓・製パンを学び、ディプロマを取得。同時期にテーブルコーディネート・フラワーアレンジメントを学ぶ。旅館を営んでいた祖母からのレシピ、懐石料理店を営む母の指導の下、子供の頃より食に関わり、その現場を見てきたことが現在に活きる。東京と高知にて料理教室を主宰する傍ら、書籍、雑誌などの執筆も行う。昔ながらの季節の食の手仕事・郷土料理・伝統食文化伝承をライフワークとしている。著書に『和の台所道具 おいしい料理帖』『高知のおいしい料理帖』(ともに日東書院本社)ほか多数。
http://www.kiwakojima.com/

今宵は このお酒で。

酔鯨
  • 高知の土地で育まれた土佐の地酒
    酔鯨 純米吟醸 高育54号

    酔鯨という名は、無類の酒好きだった土佐藩第15代藩主山内容堂が、自らを「鯨がいる海の酔っ払い殿様」という意味で「鯨海酔侯(げいかいすいこう)」と名乗っていたことが由来。先々代の「お客様にも鯨が水を飲むように豪快に、お酒を気持ちよく飲み干してほしい」という想いがこもっている。

    原料米の「吟の夢」は山田錦を母、ヒノヒカリを父に、高知のオリジナル酒米として誕生した。当初は開発番号の「高育54号」の名で酔鯨酒造が試験醸造を担当したので、この名を命名。酵母は伝統的な熊本酵母を使い、鏡川源流域の湧き水でじっくりと醸した酒だ。味わいは、端麗でありながら旨味もしっかりした土佐の酒らしい辛口酒で、キレ良く飲める。和洋問わず料理に合わせやすく、冷酒で楽しみたい1本だ。

    2018年に竣工した「土佐蔵」は純米大吟醸酒を中心に製造するために建てられた酒蔵で、国内外からの見学者を受け入れている。蔵に併設された「SUIGEI STORE」では、試飲販売の他に、甘酒や酒粕を使ったオリジナルスイーツを販売。「SAKE LAB CAFE」コーナーでは自社製造の季節の果実を材料にしたノンアルコールスイーツが楽しめる。ギャラリーでは酔鯨の最高級酒「DAITO」が各界のアーティストとコラボレートした歴代の作品を展示している。

    お問合せ

    酔鯨酒造HPhttps://suigei.co.jpTEL088-821-8003

文・平出淑恵(酒サムライコーディネーター)
http://coopsachi.jp/

撮影・小島喜和

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