ぎふベジ通信

岐阜葱の効能と美濃薬膳

谷口ももよ(薬膳料理研究家)

2022.2.21

幼少期から高校まで岐阜で過ごし、岐阜の食文化で育った私。東京の大学に進み、そのあと結婚して東京に住んでおりますが、味覚、食の好みは岐阜で育まれたものが体に染みついています。岐阜の食材の中でも葱は食卓に欠かせませんでした。そんな岐阜葱の活用術と、最近注目されている美濃薬膳をご紹介します。

白葱と青葱が両方楽しめる岐阜葱

普段の食事には赤味噌を使った葱のお味噌汁。じっくり煮込めば葱の甘さ、トゥルンとした瑞々しい食感、お味噌汁の具ではやはり葱が一番好き。

葱は余すところなく食べられるのに、東京では青い部分(以下、青葱)の多くが切り落とされ、また青葱をほとんど捨ててしまうと聞いてカルチャーショックを受けました。白いところ(以下、白葱)は瑞々しく甘い美味しさが、青葱は食感よくシャキシャキした歯ごたえがあり、栄養価もそれぞれ少しずつ違うため、1つの食材で2つの使い方ができます。

特に青葱も柔らかくて食べやすい岐阜葱はとても良いと思います。岐阜市の葱は長良川流域の肥沃で柔らかい土壌で栽培されているからこそ瑞々しい。だから青葱までも美味しいのですね!

青葱も美味しく食べよう!

青葱の部分だけを使って、実家では葱焼きをよく作ってくれたことを思い出します。シャキシャキが程よく、焼くと香ばしくてとても美味しく、東海地方で使われているコーミソースがよく合うのです!

青葱で作る葱焼。「コーミソース」を使うとさっぱりしていて美味しい。

【葱焼の作り方】
葱1本分の青い部分を細く輪切りにして、小麦粉と水を1:2程度で薄めに溶いたものをフライパンにクレープ状に流し入れ、すぐに青葱をまんべんなくのせる。さらに水で溶いた小麦粉を葱の上から少し流し、両面をこんがり焼いて、ソースをかけて完成。

葱の効能と栄養学

東洋医学では、葱は白い部分のみを主に使用し、「葱白」といって、発汗作用がある薬としても扱われます。

葱白 温性/辛 風寒感冒 冷え性

白葱は、辛味成分が寒気を伴う初期風邪に対して、汗とともに熱を外に逃がす働きと、体全体を温める効果があります。そのため、軽い風邪におすすめなのが葱粥です。食欲もないとき、葱を入れただけのさっぱりしたお粥で体を温め、汗をしっかりぬぐってからゆっくり寝ればすぐに治ってしまいますよ。

葱粥。仕上げに白髪葱をトッピングして。

栄養素的には、白葱は淡色野菜で、辛味成分の硫化アリルが多く、殺菌作用、発汗作用、免疫力を高める働きなどがあるといわれ、東洋医学では風邪薬に用いるなど効能のすばらしさを物語っています。青葱は見た目の通り、緑黄色野菜としてベータカロテンやビタミンCが多く、抗酸化作用も期待できます。だからこそ両方食べることが大切なのです。

【葱粥の作り方】
白粥の仕上げに、白葱を1人につき10㎝ほどみじん切りにして加え、少し煮込んだら完成。煮込みすぎると辛味がなくなり、効能が軽減するので注意。お好みで塩で味を付けて。

また、温性のお味噌とあわせておくだけでも簡単な薬膳茶のように。簡単味噌汁ができますので、葱とお味噌をあわせた味噌玉を作っておくのもよいですね。

味噌玉。お湯を注げば味噌汁に。

美濃薬膳と葱

戦国武将は漢方薬に興味を持っていたといわれています。健康オタクの徳川家康も高麗人参を多く用いたようで、現在日本で栽培されている高麗人参が「御種(おたね)人参」と名付けられたのは、吉宗の時代に種を諸大名に分け与えて栽培を奨励したため。幕府からいただいた御種(おんたね)に由来しています。

美濃の織田信長が伊吹山に薬草園を作らせた話も知られています。信長がポルトガルの宣教師から、人の病を治すには薬が必要であり、薬草を栽培するよう勧められたことを受け、もともと薬草の宝庫だった伊吹山に広大な薬草園を開設させたといわれています。伊吹山の「伊吹もぐさ」は有名ですね。

そして現在、長良川河畔のホテルや旅館では、信長も注目した薬草と、岐阜の食材を使った薬膳料理として「美濃薬膳」を提供しています。岐阜出身であり、「薬膳をもっと身近に、美味しく」を提唱している私としては、今後はこの美濃薬膳も研究し、広く発信していきたいと思っています。

美濃薬膳で使われる季節の食材の中でも、今回は葱のすばらしさを肌で感じることができました。薬と同じ考えで作る薬膳料理ですが、薬膳はお料理。美味しく食べられなくては薬を煎じているのと変わらなくなってしまいます。

食べることは生きること。
食べることは幸せをもたらしてくれる。
食に感謝し、その効能を最大限にいただくことが薬膳料理の基本です。

葱の中でも瑞々しく、白葱と青葱の両方を楽しめ、美味しくいただける岐阜葱。ちょっとした風邪や、のどが痛いとき、寒いときにも活用できる葱は、いざというときの守り神。美食材でもある岐阜葱を、もっとたくさんの方に愛していただきたいと思います。

谷口ももよ(たにぐち ももよ)

岐阜県出身。一般社団法人東洋美食薬膳協会代表理事、全日本薬膳食医情報協会名誉顧問、日本豆腐マイスター協会理事。薬膳料理教室「Salon de Maman」主宰。「健康は日々の食卓から」と「美食同源」をテーマに、身近な食材で簡単で美味しい薬膳レシピを心がけ、よりヘルシーな豆腐や野菜を中心としたベジ料理を新たに提唱。メディアへの出演、講演会、企業、レストランへの薬膳レシピ開発や商品開発なども手掛け、活動は多岐にわたる。著書多数。グルマン世界料理本大賞グランプリ2度受賞。

葱のモノガタリ(1)

松本栄文(日本食文化会議会長)

江戸時代の絵師、柳々居辰斎の「Duck and Onion」。鴨と葱が描かれている(メトロポリタン美術館)。

スパイスでもなくハーブでもなく、あくまでも仕上げに添える「薬味」は日本料理特有の概念です。そもそも薬味とは、料理に少量加えることで食味を引き締め、芳香、色彩を添えることで食欲を増進させる香辛植物(薬草)の総称こと。山椒、しょうが、みょうが、葱、しそ、わさびなどがあげられ、どれも日本料理の名脇役といえる存在です。

中世日本においては、薬味は「漢方・生薬」として考えられてきました。例えば、日本最古の文献『古事記』には、紀元前660年も前の話である神武東征の項に山椒の古称「椒(はじかみ)」の文字があります。

葱が登場したのは『日本書記』。仁賢天皇6年の条に「秋葱」と記されており、平安時代の『延喜式』では具体的な栽培方法が書かれています。当時は白い根深葱は存在せず、葱といえば「葉葱」(浅葱、九条葱、分葱)でした。

葱は冬も生長し、株分かれも多いことから、京の町衆にとって欠かせない存在でした。関東には、天正年間1573年以降に江戸砂村(東京都江東区)に入植した大阪人によって持ち込まれます。やがて砂村で栽培が始まりますが、近畿地方と異なり、関東平野は耕土が深く、肥沃な沖積層であることから、葱に何度も土寄せができたのです。

土寄せをすることで、地下葉柄に陽射しが当たらず、真っ白な根深葱をつくりだすことが可能に。荒川沿いの「千住葱」や、利根川沿いの「深谷葱」は、江戸時代からの一大産地です。一方、京都の葉葱「九条葱」には、葉の太型と細型の二つがあります。細型は浅葱に似て、鳥鍋の薬味には最適。そのため福岡県博多地方の郷土料理「水炊き」では鳥臭を和らげる薬味として重宝され、「万能葱」が生まれます。

岐阜では、両者の中間型であり、葱の白い部分と葉の両方を楽しめる「徳田ねぎ」がつくられるように。こうして葱は全国各地へ広まり、日本料理にとって欠かせない存在へとなっていきます。(続く)

「ぎふベジ」とは?

岐阜市近郊の5市3町(岐阜市・羽島市・山県市・瑞穂市・本巣市・岐南町・笠松町・北方町)で採れる、安全・安心にこだわり抜いた特産農産物の愛称です。
https://gifuvege.jp

ぎふベジ研究所にて、オンラインシンポジウムを開催!

ぎふベジ研究所にて、オンラインシンポジウムを開催! 日本食文化会議ぎふベジ研究所では、枝豆、大根、柿、トマト、葱の各ラボを立ち上げ、メンバーたちが改めてそれぞれの野菜に向き合っています。2月にはオンラインシンポジウム(無料)を開催。「葱ラボ」では、ぎふ葱のおいしさを徹底紹介。ふるってご参加ください!
https://jfcf.or.jp/gifu-vege/

【葱ラボの詳細】
2022年2月27日(日)19:00〜20:30(90分)

ぎふ葱をおいしく食べて健康に! 東洋医学と栄養学に基づいた葱の効能と地域による葱の食べ方の違い、薬味としての活用法と日本食での葱の役割についてをご紹介します。

■パネリスト
・谷口ももよ(東洋美食薬膳協会代表)
・堀内 議司男(茶道家)
・鳴海彩詠(茶道家)
・小川貢一(築地魚河岸三代目)

撮影・板野賢治

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