ぎふベジ通信

トマトと塩のおいしい関係

青山志穂(ソルトコーディネーター)

2022.2.14

私が塩を専門に研究し始めて16年経ちますが、その前はカゴメでトマト製品やパスタソースの商品開発の仕事をしていました。幼少の頃からトマトジュースが食卓にあるのが日常だったこともあり、根っからのトマト好き。トマト×塩はこれまた奥深く、興味の尽きない世界です。

日本のトマト食は加工食品から始まった

南米アンデス高地が原産とされるトマトを日本で初めて食用として栽培したのは、のちにカゴメの創設者となる蟹江一太郎と言われています。彼は日清戦争から帰還後にトマトをはじめとする西洋野菜の栽培に取り組みましたが、トマトは「香りが青臭い」「色が真っ赤で気持ち悪い」と敬遠され、最初の数年間は全く売れなかったそうです。

そんな時、洋食店のシェフからヒントをもらって考え出されたのが、トマトを加熱・濃縮したトマトピューレーやトマトソースでした。オムライスやナポリタンなどの西洋料理を中心に徐々に認知を得ていき、1930年頃にはトマト加工品は一般家庭でも使われるように。日本でトマトを食べる習慣は、実は加工食品から始まったのです。

洋食の普及とともにトマトソースが広まった。

その後、トマトは食用野菜としても認知を得ます。しかし、1960年代頃のトマトは樹上で完熟させると柔らかくなりすぎて流通に耐えられないため、未熟で青いうちに収穫して流通過程で追熟させるのが一般的。そのため味や香りが弱く、生のトマトはおいしくないと言われていました。

そこで長い年月をかけて品種改良に取り組み、1985年に発売されたのが生食に適した「桃太郎」です。樹上で熟してから収穫できる適度な硬さと肉厚さ、ほどよい味覚バランスを実現した桃太郎の登場により、生鮮トマト市場は一変します。

毎日の食卓で活躍する岐阜のトマト

岐阜では、現在この「桃太郎」をより栽培しやすく、食味バランスよく改良した兄弟品種である「桃太郎ネクスト」を中心に、艶があり濃い赤色で引き締まった果肉が特徴の「麗容」や、栽培方法によってフルーツトマトのように高糖度にも仕上げることができる「りんか」などが栽培されています。いずれも糖酸バランスがよく、香りも強すぎず、ほどよいトマトです!

近年は甘く、濃く品種改良されたトマトが多く流通しています。でもちょっと考えてみてください。一口食べるだけで舌の上にグルタミン酸のうまみや熟したフルーツのような濃厚な甘味がずっと残るのは、本当によいことなのでしょうか? 個人的には、ちょっと食べるだけで満足してしまうのでは、栄養を摂るという本来の食事の意味合いから逸脱するし、味の主張が強すぎて他の食材と合わせにくいように感じています。

その点、岐阜で栽培されている上記のトマトの品種は、特別に糖度が高い、特別にうまみが強いということはありません。言い換えれば「食べ疲れしない」「たくさん食べられる」「ほかの食材と合わせやすい」「アレンジしやすい」ため、生食はもちろん、様々な料理に姿を変えて飽きずに毎日食べられるし、多くの栄養を吸収できるという利点があるのです。

岐阜のトマトは毎日の食卓で活躍する。

塩にこだわるとより楽しい「冷やしトマト」

さて、トマトの生食で一番手軽なのが、スライスして塩をぱらっとかけて食べる「冷やしトマト」ではないでしょうか。マヨネーズやドレッシングをかけるより、塩だけでシンプルに。トマトが本来持っている味わいや香りを存分に楽しめ、生産者や品種の違いをより実感できます。

また、塩は同じように見えて、それぞれ味わいや特徴が異なります。塩を変えると、同じトマトでもスポットライトが当たる場所が変わって、味わいが幾重にも変化するのも面白いところです。ぜひ家にある塩を全部出してきて、トマトを食べ比べてみてください。

トマトに合う塩は、トマトの品種や調理法によって様々ですが、ここでは「桃太郎ネクスト」を冷やしトマトで食べる時の塩をご提案します!

【甘さを引き出したい場合】

しょっぱさが力強い塩(100g中の食塩相当量が多いもの)を少量かけることで、桃太郎ネクストの甘味が引き立ちます。
例)食塩、ロレーヌ岩塩、南の極み(オーストラリア)など

【うまみを引き立てたい場合】

塩そのものにうまみがある塩(マグネシウムを多めに含むもの)を使うか、トマトと同じようなニュアンスの酸味を持つ塩(カリウムを含む塩)を合わせることで、同化効果によりうまみが濃厚に感じられます。
例)くがにまーしゅ(沖縄県・多良間島)、わじまの海塩(石川県輪島市)など

【フレッシュな香りを引き立てたい場合】

エビデンスはありませんが、なぜかトマトの青い草の香りを引き立たせてくれる塩があります。
例)青い海(沖縄県)

このようにいくつかの塩で食べ比べると、桃太郎ネクストに隠されているいろいろな味わいや香りが楽しめます。

冷やしトマトは塩で味わいが変化する。

旬のトマトで「塩トマト」を!

レモンを皮ごと塩で漬け込んで熟成させた「塩レモン」は、塩味によってレモンの鋭い酸味が抑えられ、味が凝縮し、塩もまろやかになっておいしくなります。塩レモン発祥の地であるトルコでは、日本における味噌のような存在です。

トマトも同じように、塩で漬けると味や香りが強くなります。特にトマトはうまみ成分であるグルタミン酸を多く含んでいるため、熟成させるとうまみがかなり濃厚に。生のまま漬けているのでフレッシュ感も残っていて、トマトソースともまた違ったおいしさを楽しむことができます。

熟成してうまみが強まる塩トマト。

塩トマト

とんかつなどの揚げ物や生野菜サラダにソースとしてかけたり、スープや味噌汁に調味料として加えるのがおすすめ。

材料

桃太郎(大玉) 2個(約300g)
塩 30g(トマトの重量の10%)
はちみつ 30g(塩と同量)
にんにく 1かけ

作り方

1  桃太郎は1cm弱くらいの大きさに切る。にんにくはみじん切りにする。
2  熱湯消毒して水気を切った瓶に1を入れ、塩とはちみつを加えてスプーンでよく混ぜる。
3  冷蔵庫の中で24時間以上寝かせる。
*3日目以降が馴染んできてぐっとおいしくなる。保存期間は1週間が目安。

旬のトマトで、「冷やしトマト」や「塩トマト」を楽しんでください!

青山志穂(あおやま しほ)

一般社団法人日本ソルトコーディネーター協会代表理事。世界に誇れる日本の塩文化のさらなる発展を目的として、社団法人の提供するプログラムを通じて塩のプロフェッショナルの育成や各地の製塩所へのコンサルティング等を行うほか、飲食店や加工食品メーカーへの塩のコーディネート、販売店への商品の提供を行う。著書に、『日本と世界の塩の図鑑』(あさ出版)、『琉球塩手帖』(ボーダーインク)、『塩図鑑』(東京書籍)、『免疫力を高める塩レシピ』(あさ出版)がある。
https://shiho-aoyama.com/

トマトのモノガタリ(1)

松本栄文(日本食文化会議会長)

動植物の彩色図譜『東莠南畝讖』2巻<享保16年(1731年)発行>より。国会国立図書館デジタルコレクション

真っ赤に熟れたトマト。半分に切ると果汁があふれ、爽快な香りが花ひらく。このトマトの魅力を一言で表すならば、「世界中を魅了した真っ赤な果実」。和名では蕃茄(ばんか)・蕃柿(ばんがき)・唐柿(とうがき)・唐茄(とうなすび)といいます。

おそらく和名の由来は、南方から伝来したものを「蕃○」と呼び、中国から入ったものを「唐○」と命名したのでしょう。古代メキシコで栄えたアステカ文明の言葉でXITOMATL(シトマトゥル)は「膨らむ果実」を意味し、TOMATO(トマト)の語源とされます。しかし、原産地とされる南米アンデス高地には赤いトマトの姿はなく、遺伝子的な原種とされる緑色の野生種だけ。そもそもトマトは、ナス科トマト属でアルカロイド系の有毒植物で、突然変異によって赤く無毒化されたトマトを人類が発見し、栽培が始まったのです。

16世紀になると、アステカ文明を滅ぼし征服したスペイン人によって、トマトはヨーロッパ大陸へ持込まれ、観賞用植物として伝わりました。一般的に食用されるようになったのは18世紀にイタリアで開発されたトマトの瓶詰からといわれ、イギリスでもスープなどに広く利用されるようになりました。その後、出戻りのようにトマトはアメリカ大陸へ伝わりますが、有毒植物との固定概念からなかなか普及はせず、「トマトケチャップ」という調味料が発明されることによって広く食用されるようになったのです。

日本への伝来は、四代将軍の徳川家綱公の御抱え絵師であった狩野探幽の『草木写生図巻』(1668)に「唐茄」が初めて描かれていることから、江戸初期にポルトガル人やオランダ人によって観賞用植物として持込まれたと考えられます。その後、食用のトマト栽培が始まったのは明治に入ってから。洋食ブームが起こったことで「チキンライス」に用いられるトマトケチャップを入口に、日本人のトマト消費が急激に拡大していきます。(続く)

「ぎふベジ」とは?

岐阜市近郊の5市3町(岐阜市・羽島市・山県市・瑞穂市・本巣市・岐南町・笠松町・北方町)で採れる、安全・安心にこだわり抜いた特産農産物の愛称です。
https://gifuvege.jp

ぎふベジ研究所にて、オンラインシンポジウムを開催!

日本食文化会議ぎふベジ研究所では、枝豆、大根、柿、トマト、葱の各ラボを立ち上げ、メンバーたちが改めてそれぞれの野菜に向き合っています。2月にはオンラインシンポジウム(無料)を開催。「トマトラボ」では、トマトにしかできないこととは? を掘り下げてご紹介。ふるってご参加ください!
https://jfcf.or.jp/gifu-vege/

【トマトラボの詳細】
2022年2月20日(日)19:00〜20:30(90分)

日本のトマトの特徴、料理における役割、各国のトマト料理、トマト加工品におけるトマトの重要性などについてトークセッションを行います。 スパイス料理のミシュランシェフ、日本では貴重な塩の専門家、トマト県高知の郷土料理研究家など、それぞれの視点からトマトにしかできないことを語ります。

■パネリスト
・うすいはなこ(江戸料理、日本料理の料理人)
・小島喜和(郷土食文化研究家)
・青山志穂(ソルトコーディネーター)
・伊藤一城(スパイスカフェ、ホッパーズオーナーシェフ )

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