ぎふベジ通信

大根のロースト・マジック
〜岐阜産のきめ細やかな大根は劇的な進化を遂げる〜

藤田承紀(菜園料理家)

2022.1.25

冬は、大根です。
大根は、寒さの中、じっくりと育ち、エネルギーの消費を抑え、甘さをたくわえます。抜きたての冬大根をシンプルにローストして味見をした時、その真価を初めて味わえた気がしました。和食のイメージが強い大根ですが、実はイタリアンとの相性も抜群です。

寒に耐えて甘みをたくわえる大根。

大根調理、4つのポイント

根や地下茎を食べる根菜は、大根以外にも、にんじん、じゃがいも、さつまいも、さといも、かぶ、ごぼう、れんこん、やまのいも等、さまざま。その中でも、読んで字のごとく、最も根が大きい「大根」。イタリアンを意識して調理する時のポイントは4つ、「なるべく大きく切る」「ローストする」「オリーブオイルをまとわせる」「ローストした後に皮をむく」。
以下、一つずつ解説します。

1 なるべく大きく切る

ジューシーな仕上がりにしたい、もしくは食材の水分量が少ない、といった時は、できるだけ大きい状態で調理をし、盛り付け直前にカットします。小さく切ってから調理をすると、水分の損失が大きくなるからです。

2 ローストする

生、もしくは茹でると、和食のイメージに近くなります。それが悪いわけではありませんが、イタリアンの場合、ローストしてグッと甘みを引き出し、香ばしい香りをつけたほうが、相性がよくなります。家庭用のオーブンの場合、160〜180℃で40〜60分。温度が高く調理時間が長いと焼き目がついて甘みと香ばしさが強くなり、温度が低く調理時間が短いと柔らかな味わいになります。

3 オイルと塩をまとわせる

ローストをする場合、オイルをまとわせないとシワシワになってしまいます。オイルで包み込むことによって水分の蒸発を防ぐと共に、火も入りやすくなり、ジューシーで柔らかな仕上がりとなります。また、大根は味が入りにくいので、塩をまとわせてからローストすると均等に入ります。オイルの量は大根の重さに対して6%前後、塩は0.5%前後。

4 ローストした後に皮をむく

皮つきのままローストをすることにより、水分の損失を防ぎます。また、品種にもよりますが、皮は火が通りにくいため「オイル+高温加熱」という調理と非常に相性がよく、むいた皮も美味しくいただけます。

皮つきのまま、大きく切って、ローストする。

とにかくなるべく水分の損失を防ぎ、ジューシーに仕上げるというのを目的とします。大根は、主張しすぎない優しい味わいでありながらもボディがしっかりとしているので、前菜やメインの付け合せにはもちろん、ピュレにしてパスタやリゾットに、伸ばしてポタージュにと、非常に汎用性が高いです。

大根でイタリアン

今回は、ローストした大根を使ったニョッキをご紹介します。

ローストするひと手間で、大根の甘さと濃厚な味わいが引き立つ。

大根のニョッキ

材料(2名分)

大根(ローストして皮をむいたもの) 150g
小麦粉 50g
オリーブオイル 小さじ1/2
パルミジャーノ 10g
黒こしょう 適宜

作り方

1 大根はフードプロセッサーにかけてペースト状にし、ふるった小麦粉と混ぜ合わせる。
2 湯を沸かして1%の塩(分量外)を入れ、1をスプーンですくって落とし入れる。
3 2が浮いてきたら順に取り出し、水気を切る。
4 皿に盛り、オリーブオイル、削ったパルミジャーノ、黒こしょうをかける。

*ローストした大根の塩味の強さによって、仕上げで適宜、調味をする。 *小麦粉は仕上がりのイメージで強力粉、薄力粉を使い分ける。かたくり粉、そば粉、米粉等を加えてもよい。 *小麦粉を加えてねりすぎるとモチモチになり、本来のニョッキの味わいから離れるが、ねりが少ないと湯に入れたそばから溶けていくので注意。 *じゃがいものニョッキに比べるとかなりゆるい生地なので、スプーンですくい、直接湯に落として茹でる

すりおろした大根で作るあっさりとしたニョッキもありますが、ローストしてじっくりと甘みを引き出した大根で作ると、その甘さと濃厚な美味しさに驚くはず。

と、ここまで調理のポイントを長々と書き記しましたが、一番のポイントは「美味しい大根を使うこと」です。大根は本当にたくさんの種類があり、大小はもちろん、甘味と辛味の強弱も全く違い、見た目も白黒赤緑桃紫と色とりどり。そんな中から、料理の完成形に合った品種で、新鮮なものを選ぶことが大切です。

大根は種類もさまざまで、味わいも食感も異なる。

そして、新鮮なものを見極めるには、畑に植わっている大根を見るのが一番! なんでも、岐阜県は岐阜市の則武地区は、岐阜県で初めて大根が作られた「岐阜大根発祥の地」だとか。

長良川の右岸に位置するこの地一帯は、上流から運ばれた砂質の土壌が堆積していて、なんと、2m掘っても石ころが出ないそうです。大根は硬い土や塊があると割れたり曲がったりしてしまうので、砂質の大地は最上の条件。

地元の方はもちろん、岐阜市に降り立った方はぜひ、快適な畑で育つ力強い大根を見てみてください。

藤田承紀(ふじた よしき)

イタリアでの修行後、野菜作りをしながら料理家として活動を開始。料理教室、ケータリング、雑誌やテレビ出演等、アレルギーやヴィーガンに対応した、旬野菜のイタリアンを提案。2017年福祉レストラン「らんどね空と海」を立ち上げ、2020年末までシェフを務める。2021年より仙台に移住し「農と手仕事」を軸にした生活を送っている。著書に『野菜のスープ』(主婦と生活社)、『野菜のチップス・果実のチップス』(文化出版局)がある。また、環境省「つなげよう支えよう森里川海」プロジェクトアンバサダー、「avex dance master」のダンスインストラクター、真鍮作家としても活躍。
http://fujitayoshiki.com

大根のモノガタリ(1) 

松本栄文(日本食文化会議会長)

大根は、原産地である地中海沿岸からシルクロードを旅し、中国を経て、弥生時代に日本へやってきました。古代エジプトでも食用化されていた記録があるほど歴史のある野菜で、いわば日本は大根伝来ルーツの最終地点といえます。正月七日の七草粥に欠かすことができない清白(スズシロ)は、大根の別名です。

大根が日本でこれほどまでに定着したのは、一つは精進料理と出会い、貴族の口に合ったことで、いっせいにさまざまな日本料理に使われ始めたこと。そしてもう一つは、土深く根を下ろすために霜に当たる被害が少なく、冬でも収穫できる野菜として重宝されたためでしょう。

岐阜で大根の栽培が始まったのは江戸時代中期ごろ。長良川流域は砂質土壌地帯で耕土が深いため、この地で栽培される大根は真っ白できめ細かく、やさしい甘みを持つのが特徴です。秋冬大根、2月末から収穫が始まる春大根ともに、食卓に欠かせない野菜の一つとなっています。

円山応挙の絵を原画とした『応挙画譜』より「大根」(国立国会図書館デジタルアーカイブ)。

大根の品種による特徴と適した料理について、次回に続きます。

「ぎふベジ」とは?

岐阜市近郊の5市3町(岐阜市・羽島市・山県市・瑞穂市・本巣市・岐南町・笠松町・北方町)で採れる、安全・安心にこだわり抜いた特産農産物の愛称です。
https://gifuvege.jp

ぎふベジ研究所にて、オンラインシンポジウムを開催!

日本食文化会議ぎふベジ研究所では、枝豆、大根、柿、トマト、葱の各ラボを立ち上げ、 メンバーたちが改めてそれぞれの野菜に向き合っています。この1月、2月にはオンラインシンポジウム(無料)を開催。「大根ラボ」では、「食材としての大根の面白さ」に着目。ふるってご参加ください!
https://jfcf.or.jp/gifu-vege/

【大根ラボの詳細】
2022年1月30日(日)19:00〜20:30(90分)

辛いのに、甘い。水分が少ないのに、ジューシー。硬いのに、柔らかい。 相反する特徴と魅力をもった大根は、ジャンルを問わず多くの料理人に愛されています。和、洋、仏、伊と、異なるジャンルの4人による大根へのアプローチについて話をします。

■パネリスト
・藤田承紀(菜園料理家)
・唯根命美(日本サンドイッチ協会会長)
・藤田純子(料理家・管理栄養士)
・松本栄文(一般社団法人日本食文化会議会長)
■ファシリテーター
・中沢美佐子(株式会社JFLAホールディングス相談役)
*これまでに行われたシンポジウムは、 こちらからご覧いただけます。

撮影・藤田承紀

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