ぎふベジ通信

枝豆と日本酒

平出淑恵(酒サムライコーディネーター)

2022.1.18

岐阜市は全国的にみても枝豆の生産が盛んな地域。枝豆は「あぜまめ」とも呼ばれ、農家の自家用として食されてきた。そして、枝豆といえば、お酒のお供である。そこで旧知の酒仲間である小町酒造の金武直文社長に、岐阜の枝豆のお話をうかがった。

大粒で甘〜い「岐阜えだまめ」

枝豆とは、未成熟のうちに収穫した大豆のこと。一般的な白毛豆(青豆)のほか、豆の薄皮が茶色い茶豆や、黒大豆を未熟のうちに収穫した黒豆がある。

大豆は「畑の肉」とも称されるほど、良質なタンパク質を持つことで知られている。成熟する前に収穫する枝豆は、そのタンパク質を構成するアミノ酸の一つ、「メチオニン」を豊富に含むのだが、このメチオニンが肝臓の働きを活性化させ、アルコールの分解を助けてくれる。お酒のおつまみとして理にかなっているわけだ。

枝豆は、豆と野菜の両方の栄養素を持ち合わせる。

岐阜市で本格的に枝豆の生産が始まったのは昭和32年ごろ。主な産地は岐阜・西濃地域で、なかでも長良川流域の肥沃な土壌で育つ枝豆は大粒で甘いのが特徴だ。かつて田んぼのあぜに植えられた枝豆は、稲刈り前の9月、10月に収穫されたが、現在、露地ものは7月から8月にかけてが旬。夏のビール党の需要に応えられるようにとハウス栽培も盛んで、早くは5月から出始め、初冬まで出荷されている。

露地ものは収穫直前まで防虫ネットで畑を覆っているのだが、この防虫ネットを使ったトンネル栽培は、平成15年に全国に先駆けて岐阜県で導入されたもの。農薬の使用が大幅に減り、安心して食べられるおいしい枝豆を作れるようになった。

枝豆の甘味と塩気に、スパークリングにごり酒を

「長良川」の醸造元である小町酒造の金武さんとは、私がアドバイザーを務める「日本酒造青年協議会幹事会」で知り合ったのだが、この若手の会と共に、世界最大のワインコンペティションにSAKE部門を創設したり、「酒サムライ」というアンバサダー事業を立ち上げたりと、当時一緒に汗をかいた間柄である。

明治27年創業、岐阜県蔵元 小町酒造の金武直文社長。

「岐阜の特産でもある枝豆は、長良川上流からの肥沃な堆積土で育てられるので、実がしっかり詰まっています」



岐阜は西日本最大の枝豆の産地であり、「岐阜えだまめ」のブランド名で親しまれている。

「昔は田んぼのあぜに植えられており、農家さんからおすそ分けでいただいたのを記憶しています。初夏から夏の終わりまでに収穫される生野菜として認識していましたので、大学で東京に出て冷凍枝豆を見たときは少しビックリ! 岐阜の枝豆は、とにかく甘いので、大人のおつまみというより、子供も好きなおかずとして親しんできました」



枝豆はゆでる時に、さやの端を切るのがコツだそう。塩味がしみ込みやすくなる。気候が暑くなってくるころがおいしいということもあり、お酒との相性でいえば、スッキリとした冷酒がいいと金武さん

「枝豆の塩味をキッチリときかせるので、甘味のあるお酒が合いますね。うちのお酒でお薦めは、スパークリングにごり酒です。豆の甘味と塩味に、冷えたスパークリングのスッキリ味と、にごり酒の甘味がマッチします」



冷凍枝豆の普及で、枝豆はつきだしや軽いつまみのように扱われることもあるが、主菜にもなれる「岐阜えだまめ」と日本酒を味わっていただきたい。

「長良川 スパークリングにごり生酒」(小町酒造)。寒造りの新酒を酵素が生きたまま瓶に詰めた生酒。瓶内二次発酵による自然発泡ですっきりとした味わい。

平出淑恵(ひらいで としえ)

日本航空にて国際線担当客室乗務の傍ら、シニアソムリエの資格を取得。2007年に若手の蔵元の全国組織「日本酒造青年協議会」の酒サムライ活動に参画し、世界最大規模のワインコンペティション(IWC)に日本酒部門を創設。現在は株式会社コーポ幸代表として、日本酒のグローバル化から酒処へのインバウンド誘客を目指す活動に尽力。「SAKEから観光立国」を掲げ、ワインのようにグローバルな「世界のSAKE」となるよう、そしてその価値を世界的に上げていくことを目指している。
http://coopsachi.jp


枝豆のモノガタリ(1) 

松本栄文(日本食文化会議会長)

枝豆は大豆を未成熟のうちに収穫したものですが、そもそも大豆は中国や日本をはじめとする極東の作物だということを抑えておかなければなりません。

ではいつごろから存在したかといえば、考古学の世界では縄文時代から、ツルマメという大豆の野生種がすでに食用されていたと考えられています。記録では『古事記』に大豆の記述があり、大豆は五穀の一つで、オオゲツヒメという神様のお尻から誕生した穀物とされます。古事記は古墳時代の日本を記したものですから、そのころすでに大豆が栽培されていたのでしょう。大豆は弥生時代に中国から農作物の一つとして日本に伝わったと考えられます。

中国では古くから大豆や豆腐などの加工品、若い枝豆が食用とされてきました。日本でも平安時代には貴族社会において枝豆が御膳に上がり、江戸時代には庶民の間でもごく普通に食べられていました。では中国から日本に伝わった枝豆がどのように日本各地に広まったかといえば、寺社仏閣の存在があげられます。

大豆は仏教と共に、中国から奈良の都にもたらされます。お寺が全国に派生するにつれ、多くの中国文化も広がっていくわけですが、枝豆もその一つ。じつは日本で筍を食用するようになるのもほぼ同時期です。というのも、日本在来の竹は真竹ですが、筍は孟宗竹が主流。中国の影響が強いお寺は庭に孟宗竹を植えたのですね。大豆や枝豆も同様、うちは中国仏教の教えをしっかり守っているというお坊さんのステータスでもあり、京都を中心に近畿圏を中心に栽培されるようになります。

『守貞謾稿』(国立国会図書館デジタルアーカイブ)より、江戸と京阪の枝豆売りの様子。江戸では豆を枝つきで、京阪では枝を除いてさやつきで売ったため「さやまめ」と呼んだ。

現在、枝豆の産地といえば東北地方が多いなのはなぜか。次回に続きます。

「ぎふベジ」とは?

岐阜市近郊の5市3町(岐阜市・羽島市・山県市・瑞穂市・本巣市・岐南町・笠松町・北方町)で採れる、安全・安心にこだわり抜いた特産農産物の愛称です。
https://gifuvege.jp

ぎふベジ研究所にて、オンラインシンポジウムを開催!

日本食文化会議ぎふベジ研究所では、枝豆、大根、柿、トマト、葱の各ラボを立ち上げ、メンバーたちが改めてそれぞれの野菜に向き合っています。この1月、2月にはオンラインシンポジウム(無料)を開催。「枝豆ラボ」では、世界的に人気急上昇中の枝豆の魅力を語り尽くします。ふるってご参加ください!
https://jfcf.or.jp/gifu-vege/

【枝豆ラボの詳細】
2022年1月23日(日)19:00〜20:30(90分)
日本料理ブームや健康志向もあいまって、世界で認知度を上げている我が国の「枝豆」。塩茹でだけではない、枝豆のポテンシャルをさらに上げる調理法、枝豆が家庭に浸透してきた歴史、そして枝豆にぴったりの岐阜酒をご紹介します。

■パネリスト
・入江亮子(懐石料理「温石会」主宰)
・平出淑恵(酒サムライコーディネーター)
・沢樹 舞(株式会社たべるの 代表取締役社長)
・中沢美佐子(株式会社JFLAホールディングス相談役/日本食文化会議全国大会岐阜実行員会委員長)
■ファシリテーター
・松本栄文(日本食文化会議会長)

撮影・板野賢治(トップ画面とお酒)

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