酒肴の時間

酒肴としてのロースイーツ

Mii 立石博美(ローパティシエール)

2022.3.18

「酒の肴に羊羹」という方もいらっしゃるようですが、私は羊羹にはお抹茶がよいですし、酒にはお刺身のほうがよいです。しかし以前、日本食文化会議の酒肴部研究会に参加した際、たいして飲めもしない私ですが古酒の美味しさに感動しました。熟成した古酒のまろやかで優しい風味や甘味は洋酒にも似ており、ローチョコレートがよく合うと感じました。

カカオのワイルドな風味を感じるローチョコレート

ローチョコレートとは、Low(低い)ではなくRaw(生)。よく知られている生チョコとも違います。

では普通のチョコレートと何が違うのかといえば、まず主原料のカカオが違います。ローチョコレートで用いるカカオは、発酵を低温で止めたローカカオです。通常、カカオ豆は収穫した後に木箱などに入れて発酵したものを乾燥させるですが、その際の発酵温度を低くコントロールしているのです。さらに、一般的なチョコレートの製造工程では、香ばしさを引き出すためにカカオ豆を100度以上の高温で焙煎してから使いますが、ローチョコレートは焙煎しません。

そのため、カカオ本来の風味や栄養素が失われずにそのまま摂ることができるため、ローチョコレートはスーパーフードとしても注目されています。

ローチョコレートのおすすめ、パカリの「ロー70% チョコレートバー」。

ローチョコレートはタブレットとしていろいろなメーカーから発売されています。特におすすめは、パカリの「ロー70% チョコレートバー」です。
http://www.pacarichocolate.jp/online-shop-3/raw70chocolatebar/

こちらはエクアドルの固有種であるアリバ・ナシオナルカカオなど、3つの地域のカカオ豆をブレンドして使用。それぞれの豆の発酵や工場での加工を最小限にすることで、カカオが本来持っている生命力やフラバノールなどの栄養成分、風味を損なわないように作られています。味の特徴は、鮮やかな赤い果実の風味とともに抹茶のようなグリーンな香りがあり、カルダモンのようなスパイスの風味が口の中に広がります。ワイルドなカカオ感や、濃厚なカカオを長く感じるチョコレートです。

古酒に合うローチョコファッジの作り方

近年、ロースイーツの材料も比較的手に入れやすくなりましたので、ローカカオ(ローカカオパウダーとローカカオバター)を使って簡単に作れるローチョコファッジのレシピをご紹介します。

一般的にカカオスイーツを作る場合は、カカオマス(発酵・焙煎したカカオを細かくすりつぶして固めたもの)にカカオバター(カカオ豆の油脂分を圧搾して固めたもの。カカオ豆は約50%が油脂分)をミックスさせた製菓用チョコレートを使いますが、ロースイーツの場合は、ローカカオを砕いたカカオニブを低温圧搾することで分かれた油脂(ローカカオバター)と、その残りをパウダーにしたローカカオパウダーを合わせます。

ローカカオバター。高温での発酵や焙煎を経ず、よけいな精製がされていないので、カカオ本来のよい香りがする。

ローチョコファッジ

ファッジとはイギリスの伝統菓子。通常はバターを使うところをローカカオバターに、牛乳を生カシューナッツに(水と合わせて攪拌し、カシューナッツミルクにする)、砂糖をメイプルシロップに替えた、身体が喜ぶロースイーツです(トップの写真)。

材料(14x11cmの流し型1つ分)

生カシューナッツ 200g
メイプルシロップ 40g
ローカカオバター 30g(溶かす)
ローカカオパウダー 30g
塩 少々
水 大さじ2
生クルミ 80g
カカオニブ 適宜

作り方

1 生カシューナッツを30分ほど水(分料外)に浸して柔らかくする。
2 ミキサーに水を切った1と、生クルミとカカオニブ以外の全ての材料を入れて撹拌する。
3 流し型に生クルミを入れて2を流し入れ、表面にカカオニブを散らし、冷蔵庫で一晩冷やし固める。
4 型から出し、適当な大きさにカットする。

カカオの素直な風味と、古酒のふくよかな香りが相乗します。優しい甘みが心地よく、柔らかな食感ながらクルミがいいアクセントに。

上記のレシピでも生カシューナッツや生クルミを使いましたが、ローストしたナッツではなく生のナッツを使うことがロースイーツの特徴です。

ロースイーツ(RawSweets)とは、卵・乳製品・小麦粉を使用せず、生のナッツをベースに低温で固まるカカオバターやココナッツオイルなどを利用して冷やし固めたスイーツです。酵素が加熱によって破壊されないように、48℃以上の熱を加えずに調理するので、素材に含まれる酵素やビタミン・ミネラルを摂れることが特徴です。

特にナッツは食物繊維や、ビタミンB、ビタミンEを多く含み、栄養価も高く、こちらもスーパーフード。生のナッツの良質の脂質は生活習慣病を引き起こす飽和脂肪酸ではなく、悪玉コレステロールを下げる一価不飽和脂肪酸や、血圧を下げる多価不飽和脂肪酸ですので、積極的に日々の食事に取り入れていただきたいものです。

生のナッツは良質な脂質をたくさん含む。

スイーツとしてだけでなく、ポテトサラダ、たたきキュウリ、鶏皮揚げ、豚キムチ、肉味噌もやしといった酒肴に、ぜひクラッシュナッツをふりかけてみてください。

Mii 立石博美(たていし ひろみ)

動物性食材を一切使用しないヴィーガンのロースイーツパティシエとして工房を持ち、オーダーケーキを中心に販売。その他、プロのロースイーツパティシエの育成、ロースイーツ・ヴィーガンスイーツのメニュー開発、各種イベントを開催。著書に『キレイをつくる魔法のお菓子 ロースイーツレシピ』(学研)がある。
http://www.latableduprimeur.com

今宵は、このお酒で。

  • 古酒といえば!
    達磨正宗 熟成十年古酒

    「今年の新酒ができました」という話題が多い日本酒業界で、熟成古酒に長年取り組んでいる蔵が岐阜県岐阜市の「達磨正宗」醸造元、白木恒助商店だ。

    実は日本酒の古酒の歴史は古く、鎌倉時代から存在している。貴重な酒としての文化が定着していたが、明治から昭和の戦時中にかけて、古酒は重い酒税のためにいったん姿を消し、いつしか忘れられた酒となっていた。そんななか古酒を復活させたのが、白木恒助商店6代目の白木善次(よしじ)氏。昭和40年代から独自の長期熟成古酒造りに取り組んできた。

    「熟成十年古酒」は達磨正宗の看板ともいえるフルボディのお酒で、いち早く世に出て注目された。JALの国際線ファーストクラスにも採用された銘酒だ。トパーズのような色を持ち、シルクのようになめらかで、香りはチョコレートやコーヒーリキュール、コニャックやアルマニャックにも通じる魅力がある。中華料理や肉料理と合わせれば濃厚な味わいを膨らませ、個性的なチーズやチョコレート、ドライフルーツとの相性もいい。

    お問合せ

    白木恒助商店HPhttps://www.daruma-masamune.co.jpTEL 058-229-1008

文・平出淑恵(酒サムライコーディネーター)
http://coopsachi.jp/

撮影・板野賢治

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