酒肴の時間

フレンチとコロッケの関係

小川奈々(フランス料理家)

2022.2.25

コロッケのルーツといわれるクロケット。具材は様々で、酒肴になりうるものもたくさん。今回は、クロケットの歴史と栗のクロケットのレシピ、日本酒に合う蟹クリームコロッケをご紹介します。

コロッケのルーツは……

コロッケというと日本では家庭料理の定番ですが、カタカナで表記されていることから、外来食のイメージがあります。コロッケのルーツは、フランス料理のクロケットとされる説が多いです。では、フランスにおけるクロケットとはどのようなものでしょうか。

クロケット(croquette)は、「カリカリとしたものを噛んで食べる」という意味の動詞クロケ(croquer)からきているといわれています。その名の通り、表面にパン粉をつけて油で揚げる料理なのですが、その具材はソース・ベシャメル(ホワイトソース)ベースや細かくしたお肉やお野菜を丸めたものと様々。

クロケットの原型は、17世紀、フランス国王ルイ14世の時代にまでさかのぼります。その頃は、ソース・ベシャメルに細かく刻んだハムを混ぜて、小さく丸めて油で揚げたものだったようです。

19世紀に入り、「国王の料理人であり、料理人の王者である」と謳われた天才シェフ、マリー・アントナン・カレームにより、パン粉をつけたものへと変化を遂げます。1817年、王室での宴にて、このパン粉のついたクロケットが供されました。その時代に出版されたカレームによる文献には、デザートとしての甘いクリームクロケットも記されており、パティシエとしても活躍した彼ならではのアイデアが興味深いです。

とはいえ、クロケットは、実はフランス独自の料理とは言い切れないのも事実です。オランダ、スペイン、イタリアを含め、ヨーロッパには、クロケットに似た料理が古くから存在するからです。

日本でコロッケというと、一般的にはつぶしたじゃがいも、挽き肉や玉ねぎが入っていますが、フランスのクロケットはこの限りではありません。つまり、クロケットが日本に伝わったとされる明治時代、当時手に入りやすかった材料でアレンジされ、コロッケという形になったといえます。現代は多くのフレンチレストランが取り入れている、フレンチと和食の融合「フランコ・ジャポネ」がすでにこの時代にあったのです。

では現在のフランスには、どのようなクロケットがあるのでしょうか。日本のようなじゃがいもと挽き肉もありますが、実にバラエティーに富んでいます。例えば、じゃがいもベースなら、干し鱈、生ハム、チキン、チョリゾー、ほうれん草など。それ以外では、豚の血(ブーダン・ノワール)や栗、チーズのクロケットなどが挙げられます。

ブーダン・ノワールのクロケット(左)と、仔羊とレモンコンフィのクロケット(右)。

いずれも日本のコロッケと異なり、小さめのひとくちサイズが特徴。メンンディッシュよりおつまみのイメージが強いです。

ちなみに、クロケット以外でパン粉をつけた家庭料理の定番は、鶏肉にハムとチーズを挟み、パン粉をつけて揚げ焼きにした「コルドンブルー」や、リヨンの郷土料理「牛の胃袋のカツレツ」などがあります。

フランスの家庭料理「コルドンブルー」。

リヨンの郷土料理「牛の胃袋のカツレツ」。

日本酒にも合うクロケットとコロッケ

さて、最後に、お酒にも合う栗のクロケットのレシピをご紹介いたします。

栗のクロケット。

栗のクロケット

【材料(ひとくちサイズ8個分)】
むき甘栗 90g
牛乳 150ml
ベーコンスライス 2枚
バター 20g
塩 少々
モッツァレラチーズ 1/8個
薄力粉 大さじ2
溶き卵 1個分
パン粉(細かいもの) 適量
揚げ油 適量

【作り方】
1 甘栗と牛乳を鍋で約1分煮る。ミキサーにかけて再び鍋に戻す。火にかけて、ぽってりとしてくるまで混ぜながら水分を飛ばす。
2 バター、塩、小さなさいの目にカットしたベーコンを加えて混ぜ、火から下ろす。冷めたら8等分して丸める。
3 モッツァレラチーズを1㎝角に切り、2の中心に押し入れ、丸める。
4 3に薄力粉、溶き卵、パン粉の順で衣をつける。180℃の油でこんがりと色づくまで揚げる。

手軽に、すぐに食べたい派の方は、北海道・ニセコにある「蟹鮨加藤」の蟹クリームコロッケがおすすめ(トップの写真)。老舗の蟹問屋・加藤水産の直営店で、料理長が蟹をふんだんに使って手作りするもの。冷凍で届くため、自宅では揚げるだけ。塩で食べてもらいたく、日本酒にも合います。蟹の旨味たっぷりで、衣サクサクです!

どちらもぜひ、お試しを。

■蟹クリームコロッケの問合せ:蟹鮨加藤 ニセコ店
050-5539-2299
niseko@sushikato.jp
https://niseko.sushikato.jp

小川奈々(おがわ なな)

2003年渡仏。ル・コルドン・ブルーパリ本校卒業、グランディプロム取得。同校アシスタントを経て、フランス外務省厨房、星付きレストランやビストロに勤務。パリ製菓学校ベル・エ・コンセイユ卒業。2010年帰国し、ビストロ料理教室を主宰。企業のメニュー開発など多方面で活躍中。著書『パリの有名レストランを巡って辿り着いた 私の星付きビストロレシピ』(誠文堂新光社)がグルマン世界料理本大賞で世界準グランプリ受賞。他に著書多数。西島秀俊主演、ドラマ「シェフは名探偵」料理監修を務める。
http://nana-ogawa.com/

今宵は、このお酒で。

  • 食と寄りそう山廃造りの銘醸蔵
    天狗舞 山廃仕込純米酒

    「天狗舞」醸造元の車多酒造は、文政6年(1823年)創業。石川県白山市のJR北陸本線松任駅より約4キロ、加賀平野の中央にある。

    霊峰白山の伏流水と加賀平野に実った米を用い、多くの日本酒を山廃仕込み(山卸し廃止酒母)で醸している。その山廃仕込みとは、昭和50年代、先代の七代当主・車多壽郎と、能登四天王の一人である名杜氏・中三郎が心血を注いで築き上げたもの。現当主の車多一成が日本酒の海外振興と共に世界発信に努めている。

    天狗舞は、グルメブームをけん引した漫画「美味しんぼ」で、「食と共に」の日本酒として最も登場した酒だ。中でも「天狗舞 山廃仕込純米酒」は、今や山廃純米酒の代名詞になっている看板銘柄。山廃仕込み特有の濃厚な香味と、酸味の調和がとれた豊かな味わい。蔵でじっくり熟成させてから瓶詰めし、蔵出ししているので、山吹に色付き、目も楽しませてくれる。常温または熱燗がおすすめ。日本食はもとより、コロッケなどの洋食や肉料理まで幅広く寄り添ってくれる。

    お問合せ

    車多酒造HPhttps://www.tengumai.co.jpTEL 076-275-1165

文・平出淑恵(酒サムライコーディネーター)
http://coopsachi.jp/

撮影・小川奈々

ページの先頭へ

むすび+ MENU