戦後寿司界の新星、生ウニ
日本食文化会議・魚部(小川貢一、うすいはなこ、佐藤容紹)
2022.2.18
築地市場に初めて生食用のウニが持ち込まれたのは、1960年代。今では高級寿司ネタのひとつとされ、キタムラサキウニ、エゾバフンウニなど品種による味の違いを楽しむまでに。今回は贅沢にも加藤水産さんから届いた両方のウニを使いわけてみた。
軍艦巻の出現で
生ウニが1960年代以前から食べられてこなかったわけではないが、生で食べられる地域は限られていた。塩を加えて加工した塩ウニは、日本の三大珍味のひとつで、ウニのおいしさは古くより確立されている。生ウニが出回らなかった理由は流通の難しさだと思うが、1960年代当時は、国鉄を退職された方が陸路で運んでいたというから驚きである。
そもそもウニは海草を食べるので、昆布の名産地がウニの名産地といってもよい。豊富な海草のある場所に生息し、食べている昆布や海草でウニの味が変わる。もちろん北海道、三陸以外でもウニは生息しているが、ほとんど地元消費で出回ることは少ない。
ウニの旬が春から夏といわれる理由は、これらの主要産地のウニが産卵の時期になり、水揚げが多くなるためだ。ウニの可食部は生殖巣なので、産卵前がベストシーズンなのである。
そもそも塩ウニが主流であったのに、いまでは高級寿司ネタのひとつにまでなったのはなぜか?
それは軍艦巻の出現のおかげである。一節によると昭和16年ごろ、銀座の久兵衛の先代主人今田氏が発案したものといわれる。ウニを持ち込んだ常連のお客様に、これを握って欲しいといわれ、試行錯誤の上、海苔で囲んだシャリの上に乗せる案を思いついた。
戦時中であったため、軍艦巻と呼ばれるようになるが、当初はゲテモノといわれ、非難されていたという。馴染むまでにしばらくかかったものの、もともと魚卵やウニに目がない日本人、流通が安定した戦後にはスター食材となった。
軍艦巻がなかったら、生ウニだけでなく、イクラも、小柱も寿司ネタとして存続してなかったことはまちがいない。
食べやすさのための工夫として作られた軍艦巻だが、やはりウニと海苔の相性は絶妙である。先にも書いたが、ウニの主食は海草である。海苔とあわせることで、より深みのある味わいが生まれる。磯の香りというと拙い表現だが、ウニそのものの味も増すように思う。
シロとアカを食べ比べ!
国産ウニの中心はキタムラサキウニとエゾバフンウニ。キタムラサキウニは棘が黒紫で長くて強そうな感じ。生ウニは黄色で築地市場では通称「白(シロ)」と呼ばれコクのある味わい。エゾバフンウニは棘が短く、どことなくかわいい。生ウニは赤色が濃く「赤(アカ)」と呼ばれ、味は濃厚で甘味が強い。
流通しているウニは箱ウニと呼ばれ、木箱に美しく並べられている(トップの写真)。ウニは目利きが難しいといわれ、産地によるところが大きいが、この箱につめる技術も味を左右する。
まずはそのまま食べてみると、2種のちがいはあきらか!!!
料理人ならば、この時点でどちらがどのような料理に向いているが、すぐにわかるはずであるが、今回は2種とも同じ調理をして味わってみた。
コクのあるシロ(キタムラサキウニ)は、ウニごはん、長芋和えがおすすめ。コクが強いので、合わせる食材があっさりとしたものとの相性がよい。
甘味の強いアカ(エゾバフンウニ)は、チーズなどとの相性がよい。今回はカナッペに使用したが、パスタなどにも好相性。
磯辺揚げは、海苔との合わせもあって、シロ、アカどちらともおいしい。個人的には、シロで充分、アカだと甘すぎるかな、という印象。
どれも美味しいにはちがいないが、長いも和えはなるべく細く長芋を切り、塩少々をかけて召し上がってほしい。醤油をかけると、どうしても醤油の味が強くなってしまうからだ。細く切ることで、口の中でウニとあわさってくれる。
ウニごはんは、我が家の祖父の作り方である。形の崩れたウニをご飯とまぜて、その上にウニをのせ、海苔少々と食べる。軍艦巻もスターだが、家庭ではこの食べ方の方が簡単で美味しい。一口のウニごはんと酒は、本当に美味い。
ウニカナッペは、焼いたバゲットに、チーズ、ウニをのせて軽く焼き、塩と胡椒と少々のオイルをかける。だれでもできる簡単なつまみである。ウニに火を通しすぎないことがポイント。
ウニの磯辺揚げは、海苔には衣をつけず、巻いた海苔の中にウニを入れて、その上に衣をたらして1分程度揚げる。揚げることで濃厚さが増し、酒が進むこと間違いなし。
贅沢品のウニ。ウニの寿命は100年とも200年とも言われる。かつては北の海に豊富にあったウニも、いまや毎年、水揚げは少なくなっている。口福をかみしめつつ、最後のひとなめまで、酒と一緒に味わってほしい。
■ウニの問合せ:北国からの贈り物
050-5533-5678
support@kitaguni.tv
https://kitaguni.tv
小川貢一((おがわ こういち)
築地魚河岸三代目、鮮魚販売方法・商品作りアドバイザー。もと仲卸ならではの豊富な知識と、素材を生かしたアイディア満載の料理に定評がある。魚のプロとして、企業や自治体主催の講演、さまざまなメディアに出演。著書に『築地魚河岸三代目 小川貢一の魚河岸クッキング』など多数。
うすいはなこ(うすい はなこ)
料理人。日本料理、食文化講師。博物館設計の仕事を経て日本料理店で修業した後、独立。「H-table 料理教室」主宰。季節や行事食、食卓文化を伝えながら、地元江戸料理の研究、地域の特色ある魚食文化を残す活動をしている。著書『干物料理帖』は 2021年グルマン世界料理本大賞でグランプリ受賞。
佐藤容紹(さとう ひろつぐ)
地域創成プロデューサー。魚屋店主。長年一次産業に関わる傍ら、古来の日本食文化と伝統にある本質と原理原則を学ぶ機会に恵まれた。水産業・農業・伝統工芸品・キャンプなどさまざまな角度から地域に関わり、経済的、社会的な活性化をさせるための活動を行っている。
今宵は、このお酒で。
自然豊かなニセコの大地で醸す北海道の地酒
二世古 特別純米酒大正5年創業の二世古酒造。加水調整をしない原酒、水、空気、そして環境にこだわる酒蔵だ。水はニセコワイス山系の雪清水と、羊蹄山からの「噴出し湧水」を使用。豪雪地帯ゆえ、酒造りを行う冬季はかまくら状態となり、低温発酵に適した環境にある。
「二世古 特別純米酒」は、地元、倶知安(くっちゃん)町で育てられた酒造好適米「吟風」を使用し、昔ながらの手法で丹精込めて醸した食中酒タイプの酒だ。香りも強く出さずに辛口スッキリに仕上げてあるが、味の出やすい吟風を使うことで複雑な米の旨味も味わえる。風味豊かなウニにピッタリ。
お問合せ
二世古酒造HPhttp://nisekoshuzo.comTEL 0136-22-1040
文・平出淑恵(酒サムライコーディネーター)
http://coopsachi.jp/
撮影・ 板野賢治