酒肴の時間

身体が整うお酒と薬膳

谷口ももよ(薬膳料理研究家)

2022.2.11

薬食同源の東洋医学では、生薬とされるものだけでなく、どんな食材にも効能があると考えます。未病の観点からすれば、旬の身近な食材こそが一番の良薬。美味しく体によいお料理と日本酒で春を楽しみましょう。

酒は百薬の長なり

お酒は、中国の「夏」の時代に穀類を加工することができるようになったことで初めて製造に成功したといわれています。貴重なお酒は当初、治療と、神への儀式として使われていました。

医の旧字は「醫」であり、矢を打つ意味を持つ「殹」と、酒つぼの意味を持つ「酉」が合わさってできた会意文字です。殹の「医」は矢を箱の中に入れて覆い隠している様子を表し、「殳」は矛で撃つ動作を表しています。つまり「医」とは、呪術で邪気を追い払い、酉を醸して薬酒を作り、治療に役立てていたのが語源といわれています。そしてお酒は、お酒によって与えられる効果そのものと、薬を作る際に効能を摘出するものとして位置していました。

中国では、酒は薬でもあった。

古代から医薬として扱われてきたお酒は、生薬を合わせてのめばより効果が高まると考えられ、薬酒も作られるようになりました。

薬酒といえば、お屠蘇が一番身近になると思います。明時代に作られた中国の薬草書『本草綱目』では、屠蘇散は赤朮・桂心・防風・菝葜・大黄などが配合されていました。現在は山椒・細辛・防風・肉桂・乾姜・白朮・桔梗などを用いるのが一般的で、体を温め、胃腸を整えることを目的に作られたようです。

何よりお酒の効果で生薬が体に吸収されやすくなり、保存性もよいとあって、お酒と医学は密接に結びつき、人々を癒す存在であったわけです。

「酒は百薬の長」
これは漢書に書かれ、「酒は適量に飲めば、多くの薬以上に健康のためによい」と解釈され有名な言葉です。実際に私たちの身体にとって、お酒はよい効能を持っています。その効能を知り、お酒によい料理とともに美味しく楽しみましょう。

知っておきたいお酒の効能

アルコールにはいつくか種類がありますが、ここでは醸造酒の代表として、日本酒、ワイン、ビールの東洋医学的観点を解説します。

日本酒(温性/甘辛苦)  

身体を温める、血の巡りをよくする、筋肉のこわばりを解消、等

ビール(寒性/苦辛)  

鬱を改善、ストレス解消、体の熱を冷やす

ワイン(温性/酸甘渋辛) 

身体を温める、気の巡りをよくする、関節の痛みを解消、等

寒い時期には日本酒かワインを選ばなくてはいけません。また、性質の後に示した味の部分は五味といって、生薬はすべてこの五味で分類されています。
「甘」は、疲れや痛みを軽減、気を補う働き
「辛」は、発汗作用で余分な熱や水を排出、代謝を上げる
「苦」は、解毒、解熱作用
「酸」は、気や汗を引き締める作用
酒はその種類によって「甘」、「辛」があり、それによって効能が少し違ってきますが、疲れを癒し、気を補い、身体を温めてくれる日本酒は、まさに百薬の長ではないでしょうか。

春によいお酒に合う薬膳料理

薬膳は生薬を使うと思っている方もいるかもしれませんが、薬食同源の東洋医学では、どんな食材にも効能があると考えます。効能の高い治療に適したものが薬と分類され、予防によいのは実は身近な食材なのです。

その食材から自分に適した効能をもつもの、天候にあう食材を組み合わせたものが薬膳料理。春によい食材は肝機能を正常に保つ働きのある、少し苦みのある春野菜などです。おススメは、菜の花・山菜・せり・春菊・セロリ等。

右上から菜の花、タラの芽、春菊。

アルコールをとるときはたんぱく質なども一緒に食べると胃に負担がかからないので、今回は春の野菜と豆腐を使った料理をご紹介します。

菜の花の白和え

クコの実をトッピングするとより薬膳らしい一品に。クコの実は肝機能を正常に保つ働きがあり、血に栄養をあたえ、血色をよくし、紫外線によるシミを防ぐともいわれています。

材料(2人前)

菜の花 1/2束(塩 少々)
木綿豆腐 1/3丁
塩、みりん 各少々
クコの実(水で戻す) 適宜

作り方

1 菜の花はさっとゆで、食べやすい大きさにきり、塩で下味をつけておく。
2 木綿豆腐はしっかり水切りする。フードプロセッサーなどで滑らかになるまで撹拌し、塩、みりんを入れて味を調える。
3 1と2を和えて器に盛り、クコの実を添える。

春菊の豆腐田楽

春といえばふきのとうを使ったふき味噌が定番ですが、春菊で代用すれば、強い苦みが苦手な方にも喜んでいただけます。

著書『お豆腐×お野菜でつくる美人薬膳ごはん』より

材料(2人前)

春菊味噌
 春菊 1/2束
 味噌 大さじ2
 みりん 大さじ1/2
 砂糖 大さじ1/2
 ごま油 小さじ1
木綿豆腐 1/2丁

作り方

1 春菊味噌を作る。春菊は細かいみじん切りにし、ごま油でさっといためる。味噌、みりん、砂糖を合わせて加え、水分が少し飛ぶまで弱火で練り合わせる。
2 木綿豆腐はしっかり水切りし、田楽用に食べやすい大きさに切る。
3 2に1を大さじ1程度塗り、オーブントースターで3、4分焼く。

季節のお料理に、お酒もいろいろチョイスして楽しみたいですね。

谷口ももよ(たにぐち ももよ)

岐阜県出身。一般社団法人東洋美食薬膳協会代表理事、全日本薬膳食医情報協会名誉顧問、日本豆腐マイスター協会理事。薬膳料理教室「Salon de Maman」主宰。「健康は日々の食卓から」と「美食同源」をテーマに、身近な食材で簡単で美味しい薬膳レシピを心がけ、よりヘルシーな豆腐や野菜を中心としたベジ料理を新たに提唱。メディアへの出演、講演会、企業、レストランへの薬膳レシピ開発や商品開発なども手掛け、活動は多岐にわたる。著書多数。グルマン世界料理本大賞グランプリ2度受賞。

今宵は、このお酒で。

  • 和は良酒を醸す
    蓬莱泉 純米吟醸 和

    元治元年(1864年)創業、「蓬莱泉」醸造元の関谷醸造。蔵がある設楽町は、愛知県の北東部に広がる三河山間地域の中央に位置し、名古屋市中心部から約90キロ、人口5000人ほどの町だ。関谷醸造は、和醸良酒「人の和によって造られる美酒」を掲げている。地元農家の高齢化が進み、多くなる休耕田対策でアグリ事業部を立ち上げ、地元の米作りに参画した。

    また、名古屋市内の江戸時代の米蔵を改装して開店した「SAKE BAR圓谷(まるたに)」では、蔵のある奥三河の食材を丁寧に紹介している。その空間は、地元への優しい愛情と地酒蔵のもつ大きな可能性を感じさせてくれる。2021年5月には「道の駅 したら」内に「ほうらいせん酒らぼ」という酒造りを体験できる施設を開設。地元産の米を使用し、実際に米を洗い、蒸し、仕込み、さらに酒搾りの体験を通して、日本酒造りの面白さや難しさと、この地域の風土や歴史を伝えている。

      蔵の理念である和醸良酒に由来した名の「蓬莱泉 純米吟醸 和」は、米の甘味と旨味が口いっぱいに広がり、それを酸味がさらりと消していく、甘味とキレを両立したお酒。まさに食に寄り添い、春野菜の苦みも優しく受け止めて盃も進むだろう。

    お問合せ

    HPhttps://www.houraisen.co.jpTEL0536-62-0505

文・平出淑恵(酒サムライコーディネーター)http://coopsachi.jp/
撮影・板野賢治

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