お酒に合う野菜料理とは
藤田承紀(菜園料理家)
2021.11.19
僕はここ10年ほど、動物性食材を使わない「ヴィーガンイタリアン」をご提案してきました。
チーズのかわりに白味噌など和食材を使った料理は、じつは日本酒にとてもよく合います。
パルミジャーノのかわりに
白味噌を使ってみると……
最初にヴィーガンイタリアンを作った時は、大失敗をしました。例えば、アマトリチャーナというパスタ料理は、にんにく、トマト、グアンチャーレ(豚ほほ肉の塩漬け)、ペコリーノチーズで作ります。そこからグアンチャーレとペコリーノチーズを抜いてしまったら、トマトだけのあっさりとしたパスタソースになってしまったのです。
その後も、動物性食材を使わずにイタリア料理を作ろうとすると、どうしてもコクや旨味が足りない味わいになってしまいました。そこで、コクと旨味を足せる身近な植物性食材を考えたところ、下記が挙げられました。
味噌/醤油/昆布/どんこ/葛粉/豆乳/豆腐/ねりごま
などなど
そう、全て日本古来のものばかりだったのです。日本は植物性食材の宝庫だと、嬉しくなった瞬間でした。
次に、それらの食材を使ってイタリアンに落とし込んでいきました。まず、イタリアンで最もよく使われる「パルミジャーノ」をどう代用するかを考えました。
すぐに答えが出ました。「白味噌」です。パルミジャーノとまったく同じ要素をもっているのです。試しに、パルミジャーノを使う料理でそのまま白味噌に置き換えて作ってみたところ、バッチリうまくいきました。お伝えしなければ、お客様にも全く気づかれない自然な味わい。
しかも「白味噌」は、調理後時間がたっても状態が変わりにくい、煮込める、かろやか、溶けやすい、といったメリットも多くあります。それ以来、むしろパルミジャーノよりも白味噌を多く使うようになりました。
このように、イタリアンにおいてパルミジャーノのような味わいをつけたい場合は、砂糖や水飴などの糖分が入っていない白味噌が使用しやすいです。
3つのペーストで
お酒に合うヴィーガンイタリアン
今回は、白味噌を用いて旨みやコクを持たせることで、多種多様な味わいをもつ日本酒と力強くつながることができる野菜料理を3点、ご紹介します。
じゃがいものペストジェノベーゼ
本場のペストジェノベーゼと違う点は、バジルを大葉に、パルミジャーノを白味噌に、ナッツをねりごまに変えているところ。その理由は、和食材のほうが高品質で低価格で手に入りやすいからです。オリーブオイルが味わいをまとめてくれるため、不思議と和風にはなりません。
材料(作りやすい分量)
じゃがいも 200g
ペストジェノベーゼ
大葉 50g
ねりごま 90g
にんにく 1かけ(5g)
太白ごま油 100ml
オリーブオイル 100ml
白味噌 30g
作り方
1 じゃがいもは皮をむき、好みの大きさに切る。1%の塩(分量外)を加えた湯で、好みの硬さになるまでゆで、水気を切る。
2 ペストジェノベーゼを作る。全ての材料をフードプロセッサーに入れ、ペースト状になるまで攪拌する。
3 1と2適量を合わせ、塩(分量外)で調味する。
茄子のアマトリチャーナ
ヴィーガン料理において、ベーコンの代わりに、燻製香をつけてオイルを染み込ませた茄子を使うことがあります。ここではそのイメージでアマトリチャーナを仕上げました。
材料(作りやすい分量)
茄子 200g
オリーブオイル 大さじ1
塩 小さじ1/4
[A]
玉ねぎ 1/2個(100g)
にんにく 小1かけ
赤ワイン 大さじ2
オリーブオイル 大さじ1
唐辛子 ごく少量
塩 小さじ1/4
[B]
ホールトマト 1/2缶(200g。粗くつぶす)
バジル 1枝
白味噌 小さじ2
作り方
1 茄子は一口大に切り、オリーブオイルと塩をからめる。190℃に予熱したオーブンに入れ、とろりと柔らかくなるまで約15分加熱する。
2 Aの玉ねぎとにんにくの皮をむき、スライスする。フライパンに入れ、残りの材料も加えてフタをし、玉ねぎが柔らかくなるまで中弱火で加熱する。
3 フタを外してBを加え、とろりとするまで中火で加熱する。粗熱を取り、よく混ぜてオイルと乳化するようにする。
4 1と3をからめる。
かぶのソテー ナッツペースト
北イタリアで食べられる、ナッツとパルミジャーノを使ったペーストを、同じく白味噌で。濃厚かつクリーミーで、根菜類全般との相性が抜群です。
材料(作りやすい分量)
かぶ 300g
オリーブオイル 大さじ1
塩 小さじ1/4
[ナッツペースト]
豆乳 60ml
くるみ 50g
カシューナッツ 20g
オリーブオイル 20g
白味噌 20g
パン 20g
塩 小さじ1/4
作り方
1 ナッツペーストを作る。くるみとカシューナッツは150℃に予熱したオーブンで10分ローストする。パンは豆乳に浸して柔らかくする。全ての材料をミキサーに入れて撹拌する。
2 かぶは横半分に切り、オリーブオイルと塩をからめる。フライパンに入れてフタをし、焼き目がつくまで中弱火で加熱する。裏返して同様に焼き目をつける。
3 2に1を適量加えて混ぜ合わせる。からまないようであれば少しずつ水を加える。
これら3つのペーストは、そのまま塗って前菜やメインに、水を加えてパスタソースに、さらに伸ばしてスープやポタージュにと、非常に幅が広いです。冷凍もできるのでぜひお試しください。
仙台に移住して感じたこと
今年の春、仙台に移住をして自然が身近になり、野菜料理への熱はさらに大きく強くなりました。
畑での野菜作りに加え、田んぼでの米作り、さらには日本酒用のお米の準備や、ワインの葡萄収穫、それら地元食材を使った食事会といった時間を過ごしました。
そういった生活の中で、より強く実感したのは「生産物の受け皿としての酒」と「農業の多面的機能」についてです。
味が良くても見栄えが悪いものは流通に乗せづらいですが、それらが酒となれば、きちんとした商品になります。大雨が降った際、畑や田んぼは膨大な量の水をせき止めてくれ、防災の役割を果たしてくれます。
酒と料理が地元で食文化となれば、それはそのまま生産者を支え、自然の循環となり、暮らす人々の防災に繋がります。消費者はそんな事を想いながら、生産者への感謝と共に食事を楽しむ。それこそが、最高の酒肴となるのではないでしょうか。
藤田承紀(ふじた よしき)
イタリアでの修行後、野菜作りをしながら料理家として活動を開始。料理教室、ケータリング、雑誌やテレビ出演等、アレルギーやヴィーガンに対応した、旬野菜のイタリアンを提案。2017年福祉レストラン「らんどね空と海」を立ち上げ、2020年末までシェフを務める。2021年より仙台に移住し「農と手仕事」を軸にした生活を開始。著書に『野菜のスープ』(主婦と生活社)、『野菜のチップス・果実のチップス』(文化出版局)がある。また、環境省「つなげよう支えよう森里川海」プロジェクトアンバサダー、「avex dance master」のダンスインストラクター、真鍮作家としても活躍。
http://fujitayoshiki.com
今宵は このお酒で。
それは、天と地を潤す一滴、通好みの銘酒
乾坤一 特別純米酒 宮城県産神力今回は、藤田さんが住まいを移した宮城県の蔵元のお酒を紹介したい。
乾坤一醸造元の大沼酒造店は、江戸中期の正徳2年(1712年)の創業。明治3年、視察で訪れた初代宮城県知事の松平正直がお酒の味わいに感動し、この世で一番のお酒になるよう「乾坤一(けんこんいち)」と名付けたそうだ。その名に恥じぬよう妥協を許さず、地元を愛し、愛され、この土地に根差した酒造りを続けている。
原料の米は、長年、宮城県産ササニシキが中心だったが、近年は「亀の尾」「神力」「愛国」の明治三大品種を宮城県内で契約栽培。地元農家と手と心を合わせ、酒造りに関わる全ての人が一つの輪となって、宮城でしか表現できない味わいを追求している。
「乾坤一 特別純米酒 神力」は、米の特性が出やすいように、扁平精米を採用した。香りは控えめで、さらりとした柔らかな口当たりから、ほのかに白葡萄のような含み香が広がる。シャープな酸が印象的で、後味は軽やかで余韻がきれい。冷やすと酸味がより際立つキレの良い味わい。温めると柔らかさの中に、穏やかな甘みも感じられて違う印象に。高めの温度帯でも味わいのバランスが崩れず、新たな表情を見せてくれる。好みの温度帯を探しながら楽しめる1本だ。お問合せ
大沼酒造店HPhttps://kenkonichi.com/TEL0224-83-2025
文・平出淑恵(酒サムライコーディネーター)
http://coopsachi.jp/
撮影・藤田承紀