酒肴の時間

日本酒に合うチョコレート
(タブレット・ショコラ +α編)

並木麻輝子(料理ジャーナリスト)

2022.3.11

今回登場するのはこのシリーズ初となる甘い酒肴(=スイーツ)。そのなかでもチョコレートにスポットを当て、日本酒と相性の良いものを集めてみた。ひと口にチョコレートと言っても多彩なカテゴリーがあるけれど、まずは、ビーン・トゥ・バー(*)のタブレット・ショコラ(板チョコ)を中心に、いくつか変化球アイテムも加えたツワモノ11品をご紹介しよう。

*ビーン・トゥ・バー ビーン(カカオ豆)からバー(板チョコ)までの全工程を一つの工房で行う製造スタイル。

ぶどう山椒、醤油、酒粕、青のり……。
日本食材を意識した海外ブランドから。

「フリスホルム」(デンマーク)のオパヨミルク山椒(左)、メダグラソイ70%(右)。

まずはデンマークのブランドより。いずれもショコラティエのフリスホルムさんが和歌山を訪れたことによって生まれた傑作だ。

「オパヨミルク山椒」は、和歌山県産のぶどう山椒を使った風味豊かなタブレット。口に含むと、ぶどう山椒特有のフローラルな香りと爽やかさが広がる。のみならず、舌先を刺激するしびれ感までをバランスよく感じさせる構成は、さすがもと料理人。ベースにはフリスホルムの代表作でもある「オパヨミルク50%」を使用。この旨味溢れるミルクチョコと山椒の相乗効果に注目してほしい。
https://tomoesaveur.thebase.in/items/29191313

「メダグラソイ70%」は、発表以来ヨーロッパでも注目を集めている醤油風味のチョコレート。ベースにはニカラグアの中でも、かなり収穫量の少ない単一品種の「メダグラカカオ」を使ったダークチョコレートを使用。これに和歌山県有田郡の湯浅醤油をフリーズドライのパウダー状にしてブレンドしている。カカオ分70%のチョコとは思えない甘味と旨味、凝縮した醤油の味わいはクセになること請け合い。
https://tomoesaveur.thebase.in/items/53020986

Brand Story :フリスホルム(デンマーク)

デンマークのビーン・トゥ・バーの第一人者である、もと料理人のミッケル・フリスホルムが2008年に創設。料理人との親交が深く、多くのトップシェフが彼のクーベルチュールを使用。ニカラグアを中心に、産地にも頻繁に足を運んで品種の保全活動に取り組み、カカオを育むテロワールの価値を掘り起こしながら、高品質なチョコレート作りを心がけている。

「ノエルベルデ」(エクアドル)のニコフ+酒粕パウダー。

続いては南米、エクアドルから。創業1711年、福島の造り酒屋「仁井田本家」の酒粕パウダー「にいだのさけゆき」を合わせたカカオ分70%のチョコレート。口に入れた瞬間、ビターなカカオの味わいに負けない、存在感のある酒粕の風味が鼻に抜ける。ちょっとクリーミーな旨味や、余韻まで美味。その陰からチラリと覗く赤いベリー系の風味も味の引き立て役だ。
https://www.noelverde.com/ct-nicofsakepowder

Brand Story :ノエルベルデ(エクアドル)

エクアドル在住の高橋力榮さんが、現地のテロワールに育まれたカカオの魅力を伝えるため、土壌作りからこだわったブランド。設立は2018年。カカオ作りに繋がる人や環境がより豊かになる持続可能な未来を願って、生産者の指導をはじめ、関わる全てが共に育ってゆく循環型のレイズトレードを実践している。

「エルセイボ」(ボリビア)のカカオニブ&ウユニソルト(左)、クプアスチョコレート(右)

ボリビアからはこの2枚。
「カカオニブ&ウユニソルト」は、日本酒のアテとしては王道中の王道ともいえる塩入りのチョコ。しかもこちらは世界屈指の絶景といわれるボリビアのウユニ塩湖のクリスタルソルト入り。同地の塩はミネラル分が多く、まろやかながら旨味はしっかり。これをチョコとともに舌の上で溶かしつついただくのが醍醐味。穀物系が発酵したような芳醇なカカオの香り、ローストしたカカオニブのカリッとした歯応えも印象的だ。
http://rimexcofoods.com/?pid=113454893

「クプアスチョコレート」は、カカオの仲間のフルーツであるクプアス入りのミルクチョコレート。クプアスはグァバなどに通じるトロピカルな風味と、シークワーサーのような酸味、淡い渋みや完熟バナナのような風味も併せ持つアマゾン原産の果実。これを収穫後のフレッシュな状態でフリーズドライにし、チョコレートに合わせている。華やかな香りと透き通った酸味が日本酒と好相性。
http://rimexcofoods.com/?pid=166361898

Brand Story :エルセイボ(ボリビア)

ボリビア・アマゾン地域のアルト・ベリニ地方で、カカオの木の栽培からチョコレートの製造までを一貫して手掛ける。同社のチョコレートは、世界的なチョコレート鑑定家クロエ・ドゥートレ・ルーセルとの共同開発によって誕生。いずれも安全安心なカカオ豆から作られている。

「アンチドート」(アメリカ)の73%アルテミス(アーモンド+フェンネル)。

月と狩猟の女神「アルテミス」の名を冠した「73%アルテミス(アーモンド+フェンネル)」は、フェンネルシードとアーモンドを散りばめた、香りも食感も印象的なハイカカオタブレット。フェンネルシードの甘くスパイシーな風味と、ぬけるような冷涼感がビターなチョコと驚くほど合う。さらにこれが日本酒やワインとも相性良好。同社のチョコレートは、いずれもエクアドルの固有品種であるアリバ種を使用。世界のカカオ生産量の約2%しか存在しない希少種なので、じっくりと味わってほしい。
https://ecuadorchoco.thebase.in/items/18189363

Brand Story :「アンチドート」(アメリカ)

NYに拠点を置くブランド。五感に働きかけるインナービューティチョコレートをコンセプトに、オーストリア人女性のレッド Rタルハマーさんが2010年に設立。エクアドルの契約農家と連携しつつ、アーユルヴェーダに基づいたトッピングやヴィーガン対応(ミルクチョコ以外)、また低温・長時間焙煎でゆっくりとカカオの風味を引き出すなど、「美味しい」をベースに 「体が喜ぶチョコレート」作りを実践している。

「フォッサチョコレート」(シンガポール)の徳島コレクション すじ青のり(左)、徳島コレクション 柚香&酢橘(右)。

続いては、かつてない(と思われる)すじ青のりチョコ。徳島県の吉野川で冬場に収穫される香り高いすじ青のりを、乾燥後にフォッサのミルクチョコレートと合わせた「徳島コレクション すじ青のり」だ。見た目はチョコなのに、口の中に広がる風味は青のり。その香り高さにも感動するけれど、ミルクチョコと青のりの相性の良さにはもっと感動する。さらに、サクサクと香ばしい玄米も忍ばせ、味、食感、意外性まで、二度三度と楽しめる構成も魅力だ。
https://tomoesaveur.thebase.in/items/54346616

「徳島コレクション 柚香&酢橘」は、徳島の柑橘を生かした爽やかな1枚。特産の柚香(ゆこう)と酢橘(すだち)のピールを、フィリピン・ダパオ産のカカオを使ったミルクチョコレートにブレンド。柚香は、柚子と橙の自然交配種で、酸味が少なく、穏やかな香りとほんのりとした優しい甘みがある。これと凛とした酸味を持つ酢橘を合わせることで、より複雑な風味と、バランスの良い味わいが共存した仕上がりに。細かく刻んだ砂糖漬けのピールが放つ、芳醇な風味と独特の食感も味わい深い。
https://tomoesaveur.thebase.in/items/54346800

Brand Story :フォッサチョコレート(シンガポール)

マダガスカル産カカオを使ったチョコレートに感銘を受けた男女3人が、シンガポールで立ち上げたブランド。現地のティーブランドや日本の生産者との出会いから生まれたさまざまなお茶風味のチョコや、野菜、フルーツ、お菓子をイメージしたもの、料理に着想を得た「スパイシー麻辣」など、他にはないユニークなフレーバーと、豊富なラインナップが人気。

日本のビーン・トゥ・バーブランドより、
日本酒に合うチョコレート

「ネル クラフトチョコレート トーキョー」(日本)の晩柑ピール(上)、ランゴー生ショコラ(下)。

「晩柑ピール」は、熊本県天草産の晩柑の皮を柔らかく煮たコンフィ(シロップ煮)に、自家製のビターチョコをコーティング。コーティングには、ベトナム産のカカオ豆から作った爽やかな酸味のあるチョコレートと、ガーナ産の豆から作ったコクのあるチョコの2種をブレンドして使用。甘さを抑え、ほろ苦く炊き上げた晩柑ピールとビターチョコが織りなす大人のスイーツ。パリッとしたコーティングや、口に残る晩柑の余韻も美味。
http://nel-tokyo.jp/

「ランゴー生ショコラ」は、日本酒(津南醸造の「郷DOLCE」)とのコラボによって誕生した生チョコレート。とろけるような口溶けと、クリーミーなコク、ホワイトチョコとは思えぬ豊かな香りが特徴だ。ベースのホワイトチョコには、未脱臭カカオバターを使用。脱臭処理をしていないため、カカオの香りが残り、真っ白なのにしっかりとカカオ感のある仕上がりに。ホワイトチョコが苦手な人にこそ試してほしい1品だ。
http://nel-tokyo.jp/

Brand Story :ネル クラフトチョコレート トーキョー(日本)

ベトナムの契約農家をはじめ、世界から選りすぐりのカカオ豆を仕入れ加工するビーン・トゥ・バーの手法を用いたチョコレート専門店。シェフ・ショコラティエの村田友希さんが、自ら生産地に赴き、生産者と共に選び抜いたこだわりのカカオ豆や原料を使用。「日本らしさ」や「手しごと」をキーワードに、タブレットやボンボン・ショコラ、季節のアシェットデセールまで、さまざまな角度からチョコレートの可能性を追求している。

「カカオテール」の江戸味噌と金胡麻のホワイトチョコレートサラミ

ラストを飾るのは、バーが提供する絶品チョコレート。「江戸味噌と金胡麻のホワイトチョコレートサラミ」は、米麹を通常の倍量使った江戸味噌&香り高い金ゴマが主役のサラミ型のチョコ。上品な甘みとほどよい塩気を持つ味噌と、カカオハンターズのホワイトチョコが醸す旨味の相乗効果が見事だ。さらに、ネッチリと美味しさを添える干し柿や、カリッとしたへーゼルナッツ、隠し味のチーズ、周りにまとわせた柚子パウダーまで、見えない工夫が散りばめられた至福の酒肴。
https://cacaotail.official.ec/items/58752992

Brand Story :カカオテール(日本)

オーナー・バーテンダーの萩原陽介さんが、2018年、門前仲町にオープンした日本初のチョコレートペアリングバー。ここで提供されるチョコレートは店でカカオ豆から加工した自家製。それぞれの風味づけや構成、プレゼンテーションまで、バーテンダーの目線で考えられた“お酒に合うチョコの世界”を楽しませてくれる。店名を冠した「カカオテール」(スコッチウィスキー+チョコ)をはじめ、オリジナルのチョコレートカクテル、カカオの果肉を使ったカカオカクテルも豊富に揃え、バーの地平を広げ続けている。

想定外に奥深い日本酒とチョコレートの世界、お楽しみいただけただろうか?
今宵はどのチョコにどんな日本酒を合わせようか……。ぜひ皆様の意見も聞かせてほしい。

並木麻輝子(なみきまきこ)

料理ジャーナリスト。ヨーロッパ郷土料理・菓子・食文化研究家。「ル・コルドン・ブルー パリ校」の製菓・料理上級課程修了(グラン・ディプロム取得)。ヨーロッパでジャーナリストの仕事をスタートし、二十数年に渡り世界各国で取材。とくにヨーロッパの食文化に精通し、さまざまなメディアで執筆。大学や専門学校で「世界の食文化」や「映画と食べもの」の講座を担当するほか、ラジオ、講演、コーディネーターなど「食」にまつわるあらゆる分野で活動中。カカオの研究で南米、アフリカ、東南アジアなどのカカオ産地にも足を運んでいる。著書に『フランスの郷土料理』(小学館)、『SWEETS TREND BOOK』(柴田書店)など。

今宵は、このお酒で。

  • 世界に評価された蔵のスパークリング
    出羽桜 AWA SAKE

    「出羽桜(でわざくら)」醸造元の出羽桜酒造は、将棋の駒の生産日本一、ラ・フランスと温泉で知られる山形県天童市にある。創業200年、300年は当たり前という酒造業界にあって当代が四代目というのは比較的新しい蔵といえるが、同社は山形県で最大規模の蔵であり、本社の隣に李朝の磁器などを展示した出羽桜美術館を設け、地元の文化活動にも貢献している。

    仲野益美社長は現在、山形県酒造組合会長、そして酒造組合中央会の海外戦略委員長を務める。世界最大規模のワインコンペティションIWC(インターナショナルワインチャレンジ)に、2007年に設立されたSAKE部門で、過去2回、頂点であるチャンピオンサケに輝いた唯一の蔵でもある。初回は2008年の「純米大吟醸 一路」、2回目は2016年、地元の酒造好適米で醸した「純米酒 出羽の里」だ。

    世界に高く評価されたこの蔵から、チョコレートにぴったりな華やかな銘柄をご紹介したい。「出羽桜AWA SAKE」は、2016年に設立されたawa酒協会の認定酒。厳格な品質基準と第三者機関での検査をクリアしたスパークリング日本酒だけに「AWA SAKE」と認定されるものだ。美しい一筋泡が立ち上がるクリアなスパークリング日本酒で、シャンパンと同じ瓶内二次発酵による自然の炭酸ガスを閉じ込めることで実現した、きめ細かい泡が心地よい口当たり。チョコレートの豊かな味わいを受け止めて優雅なひとときに誘ってくれる。

    お問合せ

    出羽桜酒造HPhttps://www.dewazakura.co.jpTEL 023-653-5121

文・平出淑恵(酒サムライコーディネーター)
http://coopsachi.jp/

撮影・板野賢治

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