1日1柿のすすめ
岐阜・富有柿をスイーツや料理で楽しんで
宮川順子(MIIKU日本味育協会代表)
2022.1.31
柿は、縄文時代や弥生時代の遺跡から種の化石が発掘され、平安時代の『延喜式』にも干し柿や熟柿が祭礼時の供え物として使われたことが記されるなど、古くから日本人になじみ深い果物です。独特の甘みと食感は他に代わるものがなく、お菓子に料理にと多彩に使え、おまけに栄養価も高い優れものです。
人気の理由は、酸味がなく濃厚な味わい
柿の原産は日本を含めた中国などの東アジアとされますが、渋味がなくそのまま食べられる甘柿は鎌倉時代に突然変異によって生まれたとのことで日本の固有種といえます。英語ではPersimmon(パーシモン)と表記しますが、日本から欧米に伝わったためか、欧州では学名の「kaki(カキ)」として売られていて、海外のマルシェなどで見かけるとちょっとうれしくなります。
柿全体の7割を生産しているのは中国で、日本、韓国、東アジア、ブラジル、イタリア、イスラエル、オーストラリア、ニュージーランド、アメリカの一部、メキシコ、イランなど、意外なほど多くの地域で様々な品種が栽培されています。イチゴやリンゴなどに比べると地味な存在ですが、世界中で食べられている人気の秘密は、酸味がなく柔らかい食感で食べやすいことと、皆さんの想像以上に豊富な栄養価がポイントのようです。
まず重要なのは、独特のマイルドな風味と滑らかな食感です。北半球の国では、バラ科(リンゴ、モモ、アンズ、サクランボ、イチゴほかのベリー系)、ミカン科(ミカン、オレンジ、ハッサク、夏ミカン、グレープフルーツ、レモン、ライム、シークァーサー、マンダリン)やブドウ科(ブドウ、山ブドウ)など、主に酸味がある果物が主流。夏のウルシ科マンゴーと冬のカキノキ科柿は、酸味がなく濃厚な味わいで、他に代わるものがない貴重な果物です。
同じ科の組み合わせは相性が良いと言われていて、例えばフルーツタルトなどではバラ科はバラ科、ミカン科はミカン科、ブドウ科もブドウ科など同じ科の数種類を混ぜて彩りよく盛り合わせますが、同類の果物がないマンゴーと柿は単独で味わうレシピが主流です。
つまり、柿は他の果物と合わせるのではなく単独で、又は組ませるとしても生と干したもの、歯ざわりがあるタイプと熟したタイプなどがおすすめです。さらに、味覚学的に苦味と甘味は相性が良いのですが、酸味がなく甘さがメインの柿は、ほろ苦いカカオや香ばしい苦みのあるクルミなどは相性の良い食材です。生食に飽きたら、溶かしたチョコや刻んだクルミなどを振りかけてみてください。
滑らかな食感を楽しむ柿スイーツ
滑らかな食感を活かすなら、皮をむいて種を取った柿をフードプロセッサーなどでピュレに。少量のメレンゲを混ぜて凍らせるとシャーベット、牛乳や生クリームと合わせて凍らせるとジェラートに。タルトにも合います。また、柿ペーストと牛乳を混ぜれば柿プリンに。これは牛乳のカルシウムと柿のペクチンが出会うとタンパク質が固まる反応を利用するもので、非加熱で、ゼラチンがなくても固まる不思議な一品です。
さらには、食べやすく皮ごとくし切にしたものを熟成した味醂(みりん風調味料は不可)でサッと煮ると、味醂のうま味と甘味が重なり、奥深く余韻のある絶品柿コンポートになります。そのままはもちろん、バニラアイスといっしょに、ケーキのトッピングにと応用自在です。少量のバルサミコをかけるとさらに風味が増します。
干して渋みを抜いた干し柿は、ビタミンCは減りますがβ―カロテン、カリウム、食物繊維は大幅に増加して栄養価が高くなり、糖度も上がります。ねっとりとした食感を活かしてクリームチーズや生ハムなどと合わせればおしゃれなアペリティフに、パンやパウンドケーキに入れると優しく上品な風味です。
美容と健康のためにも柿料理を!
また、上品な甘さはお砂糖の代わりとして料理にも利用できます。薄くスライスした柿と生サーモンを合わせたカルパッチョは特におすすめで、サーモンのタンパク質に柿のビタミンCがはたらきかけてコラーゲンを生成し美肌効果が! ちなみに柿のビタミンCは、なんとレモン7個分!! ビタミンCの宝庫といわれるキウイフルーツやミカンより上です。ほのかに甘みのあるサーモンと柿の甘味にシャリ感のある塩などを振ると、えもいわれぬ味わいに。甘さと苦味は仲良しなので、ほのかに苦みのあるオリーブオイルがあれば最高ですね。
柿の白和えは定番ですが、特にほうれん草との組み合わせは彩が美しいばかりでなく、栄養的にもおすすめです。ほうれん草は鉄が多く含まれる食材ですが、柿に豊富なビタミンCは、鉄の吸収を促すはたらきがあるので、一緒に摂ることで貧血対策に役立ちます。
豚肉などでくるりと巻いててんぷらやフライにすれば、ほのかな甘みが肉のうまみを引き立てます。辛子などを添えるとお酒が進む1品です。また、すり下ろした生の柿は焼き肉のたれや生姜焼きのたれなどの合わせ調味料にふくよかな甘さを与え、刻んだ柿を北イタリアのモスタルダ(マスタード風味のスパイシージャム)に加えて加熱すれば、マスタードのうま味と酸味、辛味と柿のマイルドな甘みが相まって、茹でたり焼いたりしたチキンや豚肉、白身魚、チーズに添えると素敵なハーモニーを奏でます。食べるとピリッとスパイシーで、日本には無い独特の味わいです。
ちなみに、柿の栄養素は皮と実の間に多く存在するので本来は皮ごとがおすすめ。皮はできるだけ薄くむくか、チップスや天ぷらにしてもおいしくいただけます。
さらにさらに、あの渋みの成分である水溶性のタンニンには抗酸化作用があり、生活習慣病や老化の予防が期待されている栄養素で、シワの原因となる活性酸素を除去しメラニンを生み出す細胞の増殖を抑える作用があり、美肌の維持に必須です。思いのほか応用自在な柿は、美容と健康になくてはならない果物です! 1日1柿、おススメです。
注)タンニンを多く含む柿の食べ過ぎは胃石ができやすいので1日1~2個までに。
宮川順子(みやがわ じゅんこ)
長男のアレルギーを機に手作り料理に専念。茶話会の延長で料理教室を開講後、専門知識取得のため様々なセミナーに参加、各種資格を取得。味覚及び調理理論の研究過程で食の安全にかかわる様々な問題を知り、家庭料理の重要性を痛感。安心安全で健康を守る食を広めるため協会を設立。現在は「味・味覚・おいしさ」にまつわるセミナーで講師を務めるほか、資格試験講座のテキスト執筆、商品開発、食による地域活性なども手掛ける。
https://e-miyagawa.jp
「ぎふベジ」とは?
岐阜市近郊の5市3町(岐阜市・羽島市・山県市・瑞穂市・本巣市・岐南町・笠松町・北方町)で採れる、安全・安心にこだわり抜いた特産農産物の愛称です。
https://gifuvege.jp
ぎふベジ研究所にて、オンラインシンポジウムを開催!
日本食文化会議ぎふベジ研究所では、枝豆、大根、柿、トマト、葱の各ラボを立ち上げ、
メンバーたちが改めてそれぞれの野菜に向き合っています。この1月、2月にはオンラインシンポジウム(無料)を開催。「柿ラボ」では岐阜特産の富有柿の魅力を語り尽くします。ふるってご参加ください!
https://jfcf.or.jp/gifu-vege/
【柿ラボの詳細】
2022年2月6日(日)19:00〜20:30(90分)
柿は古くから日本人になじみが深く、栄養価も高い果物。お菓子に料理にと多彩に使える優れものです。独特の甘みと食感は他に代わるものがなく、その柿を生かしたアイデアレシピをご紹介します。
■パネリスト
・立石博美(ローパティシエール)
・宮川順子(一般社団法人日本味育協会代表)
・小川奈々(フランス料理家)
・小池隆介(一般社団法人日本かき氷協会代表)
・松本栄文(一般社団法人日本食文化会議会長)
■ファシリテーター
・中沢美佐子(株式会社JFLAホールディングス相談役)
*これまでに行われたシンポジウムは、
こちらからご覧いただけます。
撮影・板野賢治