「飲みニケーション」復活へ
山上昌弘(飲料学講師)
2021.11.16
コロナ禍を体験し、リアル飲み会がいかに⼤切かを感じた⼈も多いのではないでしょうか? ⽇本伝統の「飲みニケーション」もしばらくご無沙汰でしたが、いま⼈気のクラフトビールを取り⼊れて楽しんでください。
⼀⾒ムダとも思える
「雑談コミュニケーション」が実は⼤切
1万円札でおなじみの福沢諭吉は、「ビィールと云ふ酒あり。是は⻨酒にて、其味⾄て苦けれど、胸膈を開く為に妙なり。亦⼈々の性分に由り、其苦き味を賞翫して飲む⼈も多し」(『福澤諭吉全集』⻄洋⾐⾷住より)。つまりビールは苦いが胸郭を開く(腹を割って話す、胸の内を明かす)と⾔い、コミュニケーションを活性化させるのに適したお酒、だと考えていたようです。
これまで乾杯といえばビールでした。「とりあえずビール」は、スピーディに注⽂でき、同じタイミングで出てくるため、乾杯がスムーズです。同じものを飲むことで仲間意識も⾼まります。⽇本⼈が⼤切にしてきた「直来(なおらい)」、「共⾷」などの⽂化に通じるところもありますから、同じ飲みもので乾杯する⽂化も⼤切にしたいと思います。
でも最近は、乾杯時に飲みたいものを⾃由に選ぶ個⼈主義が尊重され、そもそもビールにしても、クラフトビールなど選択肢が増えて選ぶのに時間がかかります。そこで、今の時代の乾杯をよりスムーズにするために、昨今のビール事情をお伝えします。
ビールの多様性が爆発中
今、世界的には、100 を超えるビアスタイル(種類)があり、⼤きく以下のような特徴があります。
■ ピルスナー:⼤⼿の代表的な主⼒ビール、ゴールデンカラーのすっきり系
■ ペールエール:ピルスナーよりやや⾊濃く、ふくよかな味わいと余韻
■ IPA(インディア・ペールエール):ホップの⾹りと苦みが特徴的
■ ⽩ビール(⼩⻨ビール):苦みが弱くまろやかな⽩濁ビール。ヴァイツェンなど
■ ⿊ビール:ローストした⾹ばしい⻨の⾹りと味わい、⿊に近い濃⾊ビール。スタウトなど
■ カスク(バレル)エイジドビール:ウイスキーや醤油樽熟成など種類も個性も値段も豊か
■ サワービール:乳酸などにより酸味が強い酸っぱいビール。ランビック、ゴーゼなど
■ フルーツ&スパイスビール:副原料使⽤で多様な個性を持つ。パンプキンエールなど
ビールはワインや⽇本酒と同じ醸造酒ですが、副原料使⽤の⾃由度とその多様性は圧倒的。ハロウイン時期のカボチャやスパイスを使った「パンプキンエール」、バレンタインの「チョコレートビール」、お茶やコーヒーを使⽤したビール、廃棄されるパンを使った「ブレッドビール」、地元の特産品の野菜や果物を使い地域産業振興と結びついた「フルーツビール」など、その多様性は無限⼤。次々に新しいビールが誕⽣しています。
●べアレン醸造所「パンプキンエール」
https://baeren.jp/pumpkinale/#category-top
●AJB CO.「ブレッドビール」
https://anglojapanesebeer.com/collections/all/products/bread
●カケガワビール「深蒸し茶エール」
https://kakegawabeer.official.ec
近年はホップのフルーティな⾹りを強調したアロマティックな「IPA」が⼈気です。アイピーエーと呼ばれ、インディア・ペールエールの略称。昔、英国がインドに輸出していたビールがその名の由来で、ホップをたっぷり使った苦いペールエールが、伝統のイングリッシュIPA です。
⾹りも苦みも強いウエストコーストIPA、ジューシーで濁りのあるニューイングランドIPA(ヘイジーIPA)、ニュージーランド産ホップを使ったニュージランドIPA など、バリエーションも⼈気もさらに広がっています。
⽇本の醸造所が造るニュージランドIPA といえば、三重県伊勢市にある「伊勢⾓屋⻨酒」の「ねこにひき」。⽶国ポートランドの醸造所「カルミネーション・ブルーイング」とのコラボレーションにより⽣まれたもので、⾒た⽬も⾹味も価格も特別感のあるビアスタイルです。
なお、コロナ禍の酒の⾃粛により、輸⼊ビールを扱うインポーターが打撃を受けています。というのも、店舗営業やイベントの⾃粛により賞味期限切れで廃棄しても、酒税が徴収されてしまうからです。⼿塩にかけて造ったビールが廃棄されるというのも⼼が痛い。今、少しでも飲んで、彼らの助けになればと思います。
ビールのソムリエ、「ビアソムリエ」
世界的にビール⼈気の昨今、欧⽶のビジネスマンが教養としてワインを勉強するのと同様に、ビールもまさに、これから⾝につけるべき教養になっていくと思われます。そんな中、注⽬されているのが、ドイツのドゥーメンス醸造学校で創設されたビールのソムリエ「ビアソムリエ」という資格です。
ビアソムリエ世界⼤会2019 には、世界19 ヶ国から代表が集結。⽇本語での国際資格ディプロムビアソムリエ講座も、⽇本で第1回が開講され、前回初めて⽇本代表が世界⼤会に出場しました。ジャパンビアソムリエ協会では、国内資格として「ジャパンビアソムリエ」講座を実施しているので、興味のある⽅はぜひ参加してほしいです。
ジャパンビアソムリエ協会
https://www.beersom.com/
https://www.facebook.com/beersomjp
ビールの新しい世界や、楽しみがどんどん広がっています。お酒の席では⾃然と話が深まりますから、ぜひおいしいビールで「飲みニケーション」を楽しんでください!
⼭上昌弘(やまがみ まさひろ)
総合⾷品企業で酒・調味料の研究開発に従事後、飲料スペシャリストとして⼤学などでドリンク教育に携わる。(⼀社)ジャパンビアソムリエ協会会⻑、ソムリエ、農研機構 果樹茶業研究部⾨ 世界茶講師、式正織部流茶道、⽇本茶インストラクター、ティーインストラクター、茶健康科学講師。著書に『知識ゼロからの⽇本茶⼊⾨』(幻冬舎)、『世界お茶の基本』(プラザ出版、製作監修)ほか。
teacha123@hotmail.com
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