トマトの調理いろいろ
うすいはなこ、小島喜和
2022.3.31
ぎふベジを通して、改めてトマトと向き合ってみると、その奥深さにはまってしまいます。今回は調理という点からトマトの話をしたいと思います。切ってみると、おいしいトマトには、いろんな表情があることがわかります。
トマトの切り方
トマトを調理するときに、いかに切るか。なにを作りたいかによって、ここで悩む必要がある。まずは串切り。生姜焼きのキャベツの横についてくるトマトのイメージであり、一般的なサラダによくついてくる。
そもそも串切りのよいところは、中央から放射状に分けるため、栄養や味わいが一切れに均等に入ることである。玉ねぎの場合は煮崩れをふせぐことが大きな目的でもあるが、果物やトマトの場合は、甘さ、酸っぱさを均一に味わうことができる。
この切り方には2つポイントがある。まずはヘタをとってトマトを縦に半分に切ったあと、さらに半分に切る。そのあとは必ず断面側から切ること。ゼリー部を下にしては、汁気が落ちてしまいかねない。また、ヘタごと半分に切ってからヘタをとると、トマトの青みをより味わえる。このヘタの部分にトマトの香りがあるからだ。ただし、よく洗わないと、包丁で汚れもひろってしまうので注意。
また、トマトをヘタと反対側にした時に見える、放射状の白い線に沿って切ると、ゼリー部分にあたらず切ることができる。ただしこのゼリー部分はホルモン剤を用いて人工的受粉を行うと、ゼリー部が拡散した模様となり、この切り方でもゼリー部にあたってしまう。ハチを用いた受粉では均一に花粉がついて断面も均一になる。自然とはすごい。
続いてスライス。これは用途によって使い分けが必要。
まずはトマトに塩をかけて食べるいわゆるトマトスライスの場合、縦に1cm弱程度に切るのもあり。トマトのサイズにもよるが、これだと大きくて口に全部入れるのが難しい場合は、縦半分に切ってから断面と垂直にスライスするとよい。ただしこの切り方だとゼリー部がでてしまう可能性があるので、最初に半分に切る際に白い線に沿うことが重要である。
ハンバーガーには横切りスライスがおすすめ。この場合、ヘタの部分と上部は切ったそばからぺろっと食べてしまって、中央の3枚程度を使用する。ハンバーガーにかぎらず、ハンバーグに乗せたり、ソテーもこちらがよい。この場合に求められるトマトの役割は口の中をさっぱりとさせ、適度な酸味を与えること。先述の串切りでは、ゼリー部の瑞々しさはあまり感じない。難点はどうやっても均等配分できないこと。
ちなみに、ソースやケチャップにする場合はある程度細かく切るので、縦から切っても横から切ってもよい。
トマトのおいしさを実感する料理
トマトの味を構成するアミノ酸は、グルタミン酸、アスパラギン酸などがあるが、昆布と同じグルタミン酸は、トマトが赤く熟す過程で増えていく。グルタミン酸たっぷりのトマトはそれ自体で充分おいしいと感じるが、さらに倍増させるには、イノシン酸などのうま味成分と調理することである。トマトにおかか醤油がおいしいのはこのためだし、トマトおでんも鰹だしをがっつりきかせているものがよい。
今回はトマトラボでいろいろ料理をしてみた結果、家庭でも作りやすいおいしいトマト料理をご紹介したい。最初の3点はまさにイノシン酸をうまくぶつけて、絶対おいしい!を作っている料理である。
トマト丸ごと肉詰めグリル
・トマトのヘタの部分を薄く切り取り、中身をくり抜く。
・くり抜いたトマトの中身でソースを作る。中身を刻んで鍋に入れて火にかけ、アクをとりながら煮詰め、裏ごしして塩、胡椒で味をつける。
・豚ひき肉、パルミジャーノ、パセリのみじん切り、パン粉、松の実、塩、胡椒をよく混ぜ、トマトの中に詰める。
・180℃のオーブンで約30分焼く。
・仕上げにソースをかける。
トマトステーキ
・トマトを厚めにスライスする。
・塩、胡椒をして小麦粉を付ける。
・フライパンにオリーブオイルを熱して両面を焼き、表面にパルミジャーノを振って溶かし、刻んだパセリを散らす。
トマト含め煮
・トマトは湯むきする(中まで味を含ませるために湯むきは必須!)。
・だしの中にトマトを入れ、塩、醤油で味をつけ、トマトが柔らかくなるまで煮る。
トマトマリネ
・トマトを薄くスライスして器に並べる。
・塩、胡椒、米酢(ワインビネガーも可)、サラダオイルを混ぜてフレンチドレッシングを作る。
・玉ねぎを粗みじんに切り、水にさらす。
・水を切った玉ねぎをフレンチドレッシングの中に入れて混ぜ、トマトの上にかける。
トマトソース
・トマトを湯むきして粗く刻む。
・みじん切りにしたニンニク、玉ねぎ、好みでセロリやニンジンをオリーブオイルで炒める。香りが立ったらトマトを加え、ぐつぐつと20分ほど煮込み、トマトとオリーブオイルの輪っかがでてきたら塩、胡椒で味を調える。
・ミキサーにかけて裏ごしする。
*熱いうちに清潔な瓶に詰め、冷蔵庫で3日ほど保存できる。厚手の保存袋に入れて冷凍も可。
みんな大好きトマト!!!
ぎふベジのトマトラボを通して、改めてトマトのおいしさ、多様性に気がついたと同時に、国民にこれほど愛されている赤い実はないのではないかと思った。
日本にトマトを根付かせてくれた先人達、農家の方々に敬意と感謝を伝えたい。日本にトマトがなかったら、居酒屋からトマトスライスは消え、インド料理やスパイス料理は成り立たず、イタリアンは缶詰のトマトのみを使用したものになり、日本の定番サラダからは赤い色が消える。
日本においては決して古い野菜ではないが、これだけの愛され野菜をわたしは知らない。
トマトよ、ありがとう。
うすいはなこ
料理人。日本料理、食文化講師。博物館設計の仕事を経て日本料理店で修業した後、独立。「H-table 料理教室」主宰。季節や行事食、食卓文化を伝えながら、地元江戸料理の研究、地域の特色ある魚食文化を残す活動をしている。著書『干物料理帖』は 2021年グルマン世界料理本大賞でグランプリ受賞。
小島喜和(こじま きわ)
アメリカ・フランスの製菓学校にて製菓・製パンを学び、ディプロマを取得。同時期にテーブルコーディネート・フラワーアレンジメントを学ぶ。旅館を営んでいた祖母からのレシピ、懐石料理店を営む母の指導の下、子供の頃より食に関わり、その現場を見てきたことが現在に活きる。東京と高知にて料理教室を主宰する傍ら、書籍、雑誌などの執筆も行う。昔ながらの季節の食の手仕事・郷土料理・伝統食文化伝承をライフワークとしている。著書に『和の台所道具 おいしい料理帖』『高知のおいしい料理帖』(ともに日東書院本社)ほか多数。
http://www.kiwakojima.com/
トマトのモノガタリ(3)
松本栄文(日本食文化会議会長)
トマトは栽培環境により、味はもとより姿も大きく変えます。甘い「フルーツトマト」は、よく知られる品種「桃太郎」を潅水制限栽培し、糖度を8BX以上と甘く仕上げたものだということは前回お話ししました。潅水制限によるストレスを受けると、細胞の肥大が難しく、最大でも中玉にしか成長できません。そのため肉質が凝縮し、身が詰まったように硬く熟すのです。
一方、ストレスなく順調に肥大したトマトには、表皮と果肉の間にシュウ酸カルシウムの集積が白い小斑点として現れることがあります。このようなトマトは果肉がきわめて軟らかく、ゼリー部も水分が多くなります。
トマトのゼリー部の形成についても栽培環境が関わってきます。着果ホルモン剤(トマトーン)等を用いて人工授粉をさせた場合、受粉が不均一なため、ゼリー部が拡散した模様に。また、花が満開であればしっかりとしたゼリー部が発達しますが、花蕾の硬いときに処理を行えば、ゼリー部よりも、果皮や果壁(果肉)のほうが著しく発達。この成長時差によってトマト果実内の果肉とゼリーとの隙間に空洞ができるのです。
春から夏にかけて、トマトがおいしくなり、スーパーには多彩なトマトが並びます。ぜひトマトをよく観察し、育ってきた環境を想像してみてください。
「ぎふベジ」とは?
岐阜市近郊の4市3町(岐阜市・山県市・瑞穂市・本巣市・岐南町・笠松町・北方町)で採れる、安全・安心にこだわり抜いた特産農産物の愛称です。
https://gifuvege.jp
ぎふベジ研究所にて、オンラインシンポジウムを開催しました
日本食文化会議ぎふベジ研究所では、枝豆、大根、柿、トマト、葱の各ラボを立ち上げ、メンバーたちが改めてそれぞれの野菜に向き合っています。この1月、2月にオンラインシンポジウムを開催。
トマトラボの様子は下記よりご覧いただけます。
https://www.youtube.com/channel/UC1VjMNG4-XiXGkEVqG57zmQ
文・うすいはなこ
調理・レシピ・撮影・小島喜和