ぎふベジ通信

トマトとスパイス料理

伊藤一城(スパイスカフェ/ホッパーズ店主)

2022.3.11

スパイスカレーに欠かせないのがトマトです。玉ねぎとトマトの炒め方でカレーの美味しさが決まります。そして、カレーに適したトマトといえば、岐阜で多く栽培されている「桃太郎」や「桃太郎ネクスト」。ここでは、トマトを生かしたスパイスカレーの基本のレシピをご紹介します。

そもそもスパイス料理とは?

トマトは南米アンデスが原産で、インドに入ってきたのは19世紀だと言われています。玉ねぎと並び、インド料理、カレーに欠かせない食材。インドの市場には山ほどのトマトがとても安く売られているのです。

インドの市場に並ぶトマト。

スパイス料理とはなんでしょう?

カレールーとは違い、スパイスは調味料ではなく、調香料です。スパイスに味をつけるという作用はないので、どんな味とも融合します。カレー味噌ラーメン、カレーハンバーグ、カレー餃子、カレーコロッケなどなど。スパイスは味の邪魔をしないから、どんな味にも寄り添うことができるのです。


スパイスには三つの役割があります。それは、

1, 風味  2, 色味  3, 辛味

をつけることです。

そこに旨味はありません。

スパイスとは「飲食物に風味をつけるための、副材料として使用される植物の一部で、風味、辛味、色味を持っているものの総称」なのです。


スパイスは重層的・立体的な味と風味を生み出す。

スパイスでカレーを作るときの基本的な工程は、

1, ホールスパイスと油でベースの香りを作る
2, 玉ねぎでベースの味を作る
3, トマトで旨味とコクを加える
4, パウダースパイスで色味と風味と辛味を加える
5, 塩で調味する

カレーのベースはこれで完成です。その後、具材や水分を加えて、最後に仕上げの香り付けをすれば出来上がり。シンプルなのに重層的、立体的な味、風味を生み出すことのできるスパイス。その中身をひも解くと、唯一とも言える調味料が塩であり、旨味とコクはトマトに多くを依存しているのです。

旨味を作るのは、トマトの役割

カレーにおけるトマトの役割とは?


カレーに酸味をつけることがメインですが、単に酸っぱいだけではありません。それだけならレモンでもタマリンドでもできます。甘味や旨味を加えることができるのが、トマトのカレーにおける存在意義です。

スパイスカレーには甘みと酸味のバランスがよいものを。

インドのトマトは全体的に小ぶりで、日本の一般的なトマトと比べると風味が強い傾向にあります。日本ではトマトは生食用が多く、最近は糖度の高いものが重宝されることが多いのですが、インドでは風味や香りが重視されます。

日本でスパイス料理を作る場合も、桃太郎や桃太郎ネクストといった甘味と酸味のバランスがよい、桃色系トマトを使用します。岐阜のトマトは、まさにスパイス料理で活躍するトマトでもあるのです。

玉ねぎは甘味が強いので、酸味のあるトマトを合わせることで、バランスが保たれた味わいを作り出してくれます。

インドなどのスパイス料理では、出汁やブイヨンなどの旨味を加えることはありません。旨味が強すぎると風味を破壊してしまうから。スパイス料理は旨味よりも風味が評価される料理です。その風味を演出する旨味が、「トマト」なのです。

カレーのベースをインドではマサラといいます。マサラはスパイス、玉ねぎ、トマトを炒めて煮詰めてペースト状にしたもの。そこに水分と食材を加えることによって、カレーが形成されるのです。

カレー作りの最大のポイントは玉ねぎとトマトの加熱と脱水にあります。素材の味を凝縮させて旨味のベースをどう作り出すか。玉ねぎとトマトの炒め方がカレーのできを左右するといっても過言ではありません。本当に、トマトの役割は重要です。
カレーをご紹介します。

基本のチキンカレー

材料(4人分)

鶏モモ肉(唐揚げ用) 400g
玉ねぎ 粗みじん切り 250g
トマト ザク切り 250g
サラダ油 大さじ3

〈ホールスパイスA〉
 シナモンスティック(2cm) 2個
 クローブ 8個
 カルダモン 4個
 G&G(ジンジャー&ガーリック。それぞれ1対1でペーストにしたもの) 大さじ2

〈パウダースパイスB〉
 コリアンダー 大さじ2
 ターメリック 小さじ1
 カイエンペッパー 小さじ1/2
 塩 小さじ1

お湯 600ml ガラムマサラ 小さじ1/2

作り方

1 G&Gを作る。ニンニクとショウガを同量すりおろす。水を少し足してペーストにする。
2 鍋にサラダ油とホールスパイスAを入れて強火にかける。
3 油が温まり、ホールスパイスが膨らんで香りが立ってきたら、玉ねぎを入れる。よく混ぜて油で玉ねぎをコーティングしたら、強火のままであまりかき混ぜないようにする。
4 5分くらいして色付いてきたら、焦げに注意しながらよく混ぜ、水分が飛ぶように炒める。
5 黄金色になったら火を中火に戻し、さらによく混ぜる。
6 焦げ茶色になったら、G&Gを入れる。
7 G&Gの香りたったら火を強めてトマトを加える。
8 トマトを潰しながら水分を飛ばす。
9  弱火にして、パウダースパイスBを入れる。
10 よくかき混ぜて馴染ませる。香りが立ったら、強火にして湯を3回に分けて入れる。そのつど煮立たせ、最後に鶏肉を加える。
11 再度、煮立ったら中火にし、表面がフツフツしている状態を保ちながら蓋をして15〜20分煮る。時々、かき混ぜる。
12 汁気がとろりとしたら煮込み完了(水分が飛びすぎたら、水を足し、多すぎたら蓋を取って煮詰める)。
13 ガラムマサラを足してかき混ぜ、ひと煮立ちしたら火を止め、蓋をして5分くらい蒸らす。
14 塩味、水加減を調整する。

この基本をマスターすれば、具材を変えて、さまざまにアレンジできます。いろいろ試して、ぜひ自分好みのスパイスカレーを作ってください。

伊藤一城(いとう かずしろ)

1970年、東京都・墨田区生まれ。大学卒業後、インテリアデザインの会社に4年間勤務。のちに食をテーマに世界1周の旅に出て、3年半で48カ国を巡る。帰国後、木造アパートをセルフリノベーションして、2003年に「SPICE CAFÉ」を開業。レシピ本『SPICE CAFEのスパイス料理-日々のおかずと、とっておきカレー』(アノニマ・スタジオ)はグルマン世界料理本大賞2015(単一題材部門)にて世界№1グランプリ受賞。東京・兜町にスリランカ料理店「HOPPERS(ホッパーズ)」をオープン。
http://spicecafe.jp

トマトのモノガタリ(2)

松本栄文(日本食文化会議会長)

トマトの品種は、果色によって「桃色系」と「赤色系」に大別されます。一般的に桃色系は、トマト特有の青臭さや酸味が少なく、生食用に最適。赤色系は酸味と甘味のバランスがよく、コク深い味わいから加熱料理用として欧米を中心に普及しています。

日本人がトマトを生食するようになったのは、戦後の高度経済成長期の食生活が欧米化したこと。アメリカより桃色系大果品種が導入され、広く受入れられました。昭和58年にタキイ種苗より新品種「桃太郎」が開発されます。完熟しても型崩れしにくく、流通上の都合がよく、糖度が高いため、昭和60年代には桃太郎が生食用品種の大半を占めるようになりました。

1980年代になると赤色系の「プチトマト」が栽培されるように。濃厚で旨味が強いことから、サラダのアクセントに欠かせないアイテムとして人気が出ます。今や黄色系、桃色系、そしてベリー形やプラム形といった多種多様な形状で料理に彩りを添えています。

また、近年は「フルーツトマト」と呼ばれる高糖度トマトが人気です。このフルーツトマトは特別な品種を示すものではなく、通常の桃太郎種を潅水(かんすい)制限栽培し、糖度を8BX以上と甘く仕上げたものをいいます。トマトは吸水量を極限まで減少させると、細胞内の水分蒸散を防ぐために、自ら糖類(キシリトールやソルビトールなど)を生合成させ、水分濃度に粘性をもたせる働きをします。その結果、トマトは高糖度化されるのです。細胞内で生合成されたキシリトールなどの糖質は、トマトが完熟するにつれブドウ糖や果糖に酵素分解され、濃厚な甘身となります。

岐阜は盆地特有の高気温と日照時間、そして有機ミネラル質に富んだ肥沃な大地を有していることから、味わい深いトマトが生産されています。トマトは世界的な食材であるからこそ、異国料理では多分に用いられていますが、日本料理にとっても実に面白い食材です。(続く)

「ぎふベジ」とは?

岐阜市近郊の5市3町(岐阜市・羽島市・山県市・瑞穂市・本巣市・岐南町・笠松町・北方町)で採れる、安全・安心にこだわり抜いた特産農産物の愛称です。
https://gifuvege.jp

ぎふベジ研究所にて、オンラインシンポジウムを開催しました

日本食文化会議ぎふベジ研究所では、枝豆、大根、柿、トマト、葱の各ラボを立ち上げ、メンバーたちが改めてそれぞれの野菜に向き合っています。この1月、2月にオンラインシンポジウムを開催。
トマトラボの様子は下記よりご覧いただけます。
https://www.youtube.com/channel/UC1VjMNG4-XiXGkEVqG57zmQ

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