ぎふベジ通信

岐阜葱は、お出汁!

鳴海彩詠(和の衣食住スタイリスト、茶人)

2022.3.10

岐阜で生まれ育った私にとって、葱は昔から、庭先に植えられたものを採ってきて料理に使う、など四季の食卓に欠かせない食材でした。埼玉に20年ほど住んでいた時にも当たり前のように葱を使い、岐阜時代と同じように料理をしていましたが、どうも具合が違うのです。同じように見えても、育つ土地によってこれほど違う!と思った葱。今回は「岐阜葱」の秘密をご紹介します。

岐阜葱の成り立ち

葱はそもそも大きく分けると「関東の白」と言われる長葱、根深葱、千住群、加賀群(白葱)と、「関西の青」と言われる葉葱、九条群(青葱)の二つ。今、スーパーなどで並んでいるほとんどは千住群(白葱、長葱)です。ルーツ的には難波葱(青葱)が江戸へ渡り、風土に合わせて白葱化したものと言われています。

このようにザクっと二極化されると、いつもハジカレテいるのが、ここ岐阜を含む中部圏。東にも西にも入らない、天下分け目の関ケ原のように、味の分かれ目、葱の分かれ目の地域です。岐阜葱は昔から青も白も両方柔らかく、美味しくいただきます。岐阜県の「飛騨・美濃伝統野菜」に認証され、岐阜市の南に位置する岐南町徳田地区で江戸時代後期から栽培されている「徳田ねぎ」が、岐阜葱のルーツになります。

白葱と青葱のちょうど中間の性質を持ち、根元で株分かれする「分けつ性」が特徴。

現在の岐阜葱を農家さんに聞く

岐阜市内の農家さんも、もともとは徳田ねぎを作っていました。市内は長良川の肥沃な沖積地帯であり、御嶽山の火山灰層でもあります。徳田ねぎに合う粘土質系よりも軽い土地で、蒸れやすく、熱がこもりやすい。ゆえに現在、農家ではより環境に合う「千住群」の1本葱へと移っています。冬はもちろんですが、近年の半端ない暑さの夏にこそ食卓に欠かせない葱を美味しく育てているのが、岐阜の農家さんです。

蒸れ対策などで通常の土盛りではなく、白シートにより艶のある白葱を栽培。青い部分との境に土が入らず真っすぐに育てる工夫がなされている。

全国的に作られている長葱3品種を、時期と土壌に合わせて栽培しています。私自身がほかの地域の葱と比べて一番違いが分かるのが、緑の内側にある白い綿状の部分です。岐阜葱はこの白い部分が先端までしっかりと分厚い!

収穫したてはみずみずしいトロっとした水分が豊富に出てきます。これが柔らかさと甘さのもとで、フルクタンという総合多糖類で甘味成分。切り口は乾燥して白く綿状なっていきますが、水分によって粘性質が戻ってきます。

岐阜葱は、葉先まで水分たっぷり。緑の葉が筋張ることなく柔らかい。

根元部分のカットは品質の良さに影響。見極めのポイントにもなる。

水分が多い岐阜葱を、できるだけ乾燥しないよう出荷する農家さんの処理技術も見事でした。そこから美味しい葱が分かります。葉先がカットされている場合は、切り口が割れておらず真っすぐに切られていること。これは出荷の際に規定の箱に入れるためであり、決して先が傷んでいてカットするわけではありません。

そしてギリギリ根元が残る状態で綺麗にカットされていること。根元がカットされているものは、芯が抜けて水分が抜けやすく痛みやすいのです。切り口から見える白い部分が多く、葱らしい香りがしっかりと感じられ、岐阜葱の場合は太さが2cm前後で押しても柔らかくなく、白い部分に艶があるのがおすすめです。

生産者の林氏と収穫したての岐阜葱。緑と白の境目がはっきりとし、先端まで凛として瑞々しくボリュームがある。

出汁として使える岐阜葱

岐阜の味といえば、やはり味噌。豆味噌のキリっとして酸味もある熟成された味わいは葱と合い、味噌を焼いた葱につけて食べるなど、葱と味噌の関係を昔からよく聞きます。

お味噌汁で、私は葱の美味しさに目覚めました。岐阜葱と豆味噌があれば、出汁はいらない。そう言い切れます。

ぶつ切りにした1本分ほどの葱を水から煮て、葱の青臭さが甘い香りに変わったら味噌を入れて少しクツクツと。葱は加熱すると甘味=旨味がグッと引き出され、その甘味が豆味噌の微かな渋みと合わさり旨味が倍増します。青い部分を少し後入れすれば、彩りよく、葱の香りと食感がより引き立ちます(トップ画像)。

出汁には旨味のほかに香りも大切な要素。葱らしい香りがあるからこそ、岐阜葱は出汁と言えると思います。味噌ではなく、里芋と煮てブレンダーにかけただけの葱のポタージュは、一つまみの塩とオリーブオイルで葱の香りと甘味が存分に味わえます。

岐阜葱のポタージュ。柔らかい葉先が彩りに使え、1本で風味、彩りと完結できる。

夏場によく作るのが、豚の葱塩タレ茶漬け。焼肉の終盤、焼いて冷めた豚肉を短冊にカットして、ご飯にのせて葱塩タレをたっぷりとかけ、上から熱々のほうじ茶を回しかけます。葱はさっと加熱され、豚肉の脂も溶け出し、えも言われぬお茶漬けができ上がります。夏場に食べやすく、お茶漬けが食べたいがために肉を焼くという感じでしょうか。

葱塩タレは、岐阜葱を1本まるごと刻んで美味しい粗塩を葱の1割程度合わせ、風味のよいごま油でまとめるだけ。お茶漬けにお鍋、焼肉の薬味に大活躍。

冬も夏も柔らかくみずみずしい、効能たっぷりの岐阜葱。薬味としてはもちろんのこと、なにより手軽に味わえる旨味=出汁として、ぜひ一年を通して楽しんでいただきたいです。

鳴海彩詠(なるみ さえ)

喫茶陶芸文化の岐阜で生まれ育ち、岐阜高専、名古屋工業大学で建築を学ぶ。建築家具設計の仕事に関わる傍ら、着物と茶の湯の造詣を深めていく。2020年に美濃和紙が生まれる地の農村民家に拠点を移す。特に落雁や干菓子を媒体として、日本の残すべき季節のこと、色やカタチ、行事などを表現し伝えている。また土地の美味しいモノを発掘し、色々な飲料とペアリングさせたその土地を味わう茶会、中国茶と抹茶が行き交う茶会など、茶の湯をベースとしつつも多種多様な茶会を開催し、現代の喫茶文化を模索している。着物スタイリスト、インテリアコーディネーター。岐阜工業高等専門学校非常勤講師。「落雁と季節の会」「和の寺子屋*榮堂」「茶彩会」主宰。著書に『着物に合わせる洋小物』(河出書房新社)、『はじめて着物を着る人のための41のステップ』(河出書房新社)がある。

葱のモノガタリ(2)

松本栄文(日本食文化会議会長)

岐南町徳田地区を中心に受け継がれている伝統野菜「徳田ねぎ」は、江戸時代末期に尾張から種子を譲り受け、八剣村(現・岐南町)の五左衛門が地元の土壌に合うよう改良。のちにその種子を近隣の農家に無料で配布するようになり、付近一帯に普及しました。

葉ねぎの系統ながら、何度も土をかぶせることで軟白部分を長く伸ばすのが特徴。そのためクセがなくて葉も柔らかく、白い部分も青い部分も美味しく食べられます。すき焼きや鉄板焼き、鍋料理などの幅広い料理や薬味として楽しまれています。

収穫は11月上旬~3月下旬。途中で3回ほど土寄せし、おいしい白根を伸ばすため、種をまいてから収穫まで1年4ヵ月かかります。じつに手間ひまかけて作られた「徳田ねぎ」は、平成14年に県が「飛騨・美濃伝統野菜」に認定。現在も近隣の農家が自家採種をして栽培が続けられています。(続く)

「ぎふベジ」とは?

岐阜市近郊の5市3町(岐阜市・羽島市・山県市・瑞穂市・本巣市・岐南町・笠松町・北方町)で採れる、安全・安心にこだわり抜いた特産農産物の愛称です。
https://gifuvege.jp

ぎふベジ研究所にて、オンラインシンポジウムを開催しました

日本食文化会議ぎふベジ研究所では、枝豆、大根、柿、トマト、葱の各ラボを立ち上げ、メンバーたちが改めてそれぞれの野菜に向き合っています。この1月、2月にオンラインシンポジウムを開催。
葱ラボの様子は下記よりご覧いただけます。
https://www.youtube.com/channel/UC1VjMNG4-XiXGkEVqG57zmQ

ページの先頭へ

むすび+ MENU