ぎふベジ通信

エチュベからはじまる枝豆レシピ
〜岐阜産の大粒の枝豆をとことん味わう〜

沢樹 舞(ワインスペシャリスト、料理家)

2022.3.3

わたしは長年ライフワークとして農業に携わり、畑を借りて野菜を作ったり、故郷の農家さんと稲作をしています。畑では常時15種類ほどの作物を育てており、枝豆もその一つ。シーズンにたっぷり収穫できる枝豆は、まずはエチュベにして、さまざまな料理に展開して楽しんでいます。

枝豆のことをもっと知りたい!

日本人と大豆の関わりは縄文時代後期まで遡り、枝豆として食されるようになったのは、奈良あるいは平安時代といわれています。江戸時代には「湯出菽売り、三都ともに夏月の夜、それを売る。(中略)。江戸はこの菽を枝豆と云ふ。故にそれを売る詞を“枝豆や枝豆や”」(『守貞謾稿』―嘉永6年・1853年)と記されていて、肉食を禁じていた日本において、大豆は貴重なタンパク源であっただけでなく、それを枝豆として食することで、夏を代表する食材であり風物詩となっていたことがわかります。

枝豆の品種は、大きく分けて下記の3つに分類できます。

青豆(白毛豆)

国内で最も流通している一般的な枝豆。サヤのうぶ毛が白いものが多く「白毛豆」と呼ばれ、また種子の状態で、通常の大豆色もしくは薄い緑色をしたものを総じて「青豆」とも呼びます。

茶豆

外見は普通の枝豆ですが、サヤの中の豆の薄皮が茶色いことから茶豆と呼ばれています。収穫の時期は8月上旬から9月中旬と白毛豆よりもやや遅い品種が多く、白毛豆より糖類を多く含むため、強い甘味と独特の風味があります。

黒豆

枝豆としては、黒大豆が成熟して黒豆になる前の若いものを収穫します。サヤの中で黒くなる前の状態のため、サヤの中の薄皮がうっすらと黒みを帯びています。大粒の豆と黒豆特有の深い甘味と凝縮されたコクが特徴です。

また、全国各地には在来品種(地場品種)と呼ばれる特定の地域で昔から育てられてきた枝豆や、異なる品種を掛け合わせて生まれた第4の品種なども存在し、現在、枝豆には400品種以上存在するといわれています。 枝豆のことを知れば知るほど、もっと多くの品種を食べたくなるのは人情というのも。ですが自分で育てられるのはせいぜい1〜2種類。だとすると、枝豆は育てるより、好きな生産地から買い求めるのが良いのではなか……。そんな思いに駆られたわたしに「岐阜市の枝豆」との出会いがありました。

長良川がもたらす肥沃な土壌をベースに、多様な作型で生産が行われることで、他とは一線を画する岐阜の枝豆。大粒でふっくらとした味わいが特徴で、特に関西地方では高級な枝豆として支持されています。

5月、ハウス栽培の「福だるま」や「サギミドリ」から始まり、茶豆風味の「福だるま」、盛夏を代表する「エゾミドリ」、モチモチした食感の「錦秋」まで、10種類以上の多彩な品種が半年にわたり出荷されます。これらバラエティ豊かな枝豆を堪能できる、「エチュべ」という技法をご紹介します。

旨味も栄養も逃がさない調理法「エチュベ」

エチュべとはフランス生まれの調理法。素材の持つ水分を生かし、少量の水分で「蒸し煮」にすることです。フランスは水が貴重な土地柄であることと、硬水は素材に火が通りにくく水分が浸透しにくいことが、エチュベという調理法を生み出しました。

良質な水に恵まれた日本でも、エチュベはとても有効で魅力的です。まずお湯を沸かす時間が不要に。茹でることで汁に溶け出してしまう旨味成分グルタミン酸や水溶性ビタミン類が、蒸し煮により余すところなく生かせるので、素材本来の味わいが楽しめ、栄養も損ないません。

さっそく基本のエチュベから、3つの料理に展開する「枝豆レシピ」をご紹介しましょう。

エチュベなら点火して5分程度で加熱が完了。

枝豆のエチュベ

材料(作りやすい分量)

枝豆 250g
塩 小さじ2
水 30ml

作り方

1 枝豆のさやの先端部分をハサミで切り落としてボウルに入れ、塩を小さじ1程度振り、ゴシゴシと揉み込む。軽く水で洗い流す。
2 小鍋に洗った枝豆を入れ、残りの塩を振り、水を加えて蓋をする。火にかけて鍋の中がクツクツと沸いてきたら弱めの中火にして、5分程度蒸し煮にする。
3 硬めに仕上げるなら、鍋から取り出す。軟らかめにするなら、火を止めて蓋をしたままさらに5分程度おく。強火にかけて焼き色をつければ、香ばしいアクセントが楽しめる。

枝豆のタルティーヌ。

枝豆のタルティーヌ

枝豆の旨味成分グルタミン酸に、チーズのグルタミン酸が加わる旨味の足し算。そしてオリーブオイルの風味が枝豆の爽やかさと共鳴します。

材料(2枚分)

好みのパン 2枚
枝豆(エチュベにしてさやから出したもの) 大さじ2
クリームチーズ 大さじ2
オリーブオイル、黒胡椒、粉チーズ 各適宜

作り方

パンにクリームチーズを塗り、枝豆のエチュベを乗せ、オリーブオイルを回しかけ、黒胡椒、粉チーズをふる。

枝豆のパスタ。軽く潰した枝豆をネジネジした形状の「フジッリ」が絡めとる。

枝豆のパスタ

にんにくと鷹の爪で炒める「ペペロンチーノ」は枝豆でも抜群のおいしさを生み出します。チーズのグルタミン酸とベーコンのイノシン酸で旨味の足し算と掛け算。最小限の調味料で豊かな味わいです。

材料(1人前)

枝豆(さやごと) 1カップ
ベーコン 1枚
にんにく 1カケ
鷹の爪(輪切り) ひとつまみ
ショートパスタ(フジッリ) 50g
オリーブオイル、塩、胡椒、パルメジャーノ 各適宜

作り方

1 枝豆はエチュベにしてさやから取り出し、麺棒やマッシャーなどで軽く潰す。
2 鍋に湯を沸かし、塩を加えて、ショートパスタを茹でる。
3 フライパンにオリーブオイルをひき、粗く刻んだにんにくとせん切りにしたベーコンを入れて火にかける。香りが立ったら鷹の爪と1の枝豆を加えて、ざっと炒め合わせる。
4 茹でたショートパスタを3に入れ、茹で汁大さじ1程度を加えて胡椒を振り、ざっと全体を和えたら器に盛る。パルメジャーノで好みの塩気に仕上げる。

枝豆のムース。好みでオリーブオイルや黒胡椒をかけて。

枝豆のムース

材料(作りやすい分量)

枝豆(さやごと) 100g
水 80ml
生クリーム 20ml
顆粒コンソメ 5g
粉ゼラチン 3g

作り方

1 枝豆はエチュベにし、さやから取り出す。小鍋に入れ、分量の水を加えて火にかける。クツクツと沸いてきたら顆粒コンソメと生クリームを加えて一煮立ちさせ、火を止める。
2 ハンドミキサーかフードプロセッサーで粗く撹拌した後、粉ゼラチンを加えて、よく混ぜ合わせる。
3 容器に移し、粗熱が取れたら冷蔵庫で冷やし固める。

わたしの目標は、バラエティ溢れる岐阜の枝豆を、半年かけて全種類エチュベすること! できれば一度、畑にお邪魔して、夜明け前どころか深夜から始まるという収穫にも参加したいです。皆様も岐阜の枝豆を見かけたら、定番の塩茹でに加えて、このエチュベで枝豆を楽しんでみてはいかがでしょうか。

沢樹 舞(さわき まい)

ファッションモデルとして国内外で活躍後、ワインの専門家に転身。世界で最も権威のあるワイン団体シャンパーニュ騎士団よりシュバリエ(騎士)の称号などを叙任。料理家として食をテーマにしたWEBサイト「たべるの」や、週末農業、料理教室などを通して、ワインのある食卓、新世代の家庭料理を提案。現在は食を柱にした地域活性事業にも数多く携わる。著書に『ファームトゥーテーブル 沢樹舞のおいしい時間2』ほか多数。
http://www.taberuno.com

枝豆のモノガタリ(2) 

松本栄文(日本食文化会議会長)

山形県の「だだちゃ豆」をはじめ、枝豆の在来種が東北地方に多いのはなぜでしょう。そんなお話をしたいと思います。

一つは気候によるものです。夏が短く、冬が厳しい東北では、秋から冬にかけて採れる野菜が極端に少なくなります。枝豆の本来の旬は9月から10月。北国では枝豆がビタミンを補給できる貴重な存在でした。

青森の津軽地方に枝豆の独特な食べ方があります。枝豆を塩ゆでにして、鞘ごと半年ほど塩漬けにするのです。枝豆は野菜なのですね。野菜が乏しい冬から春先にかけて、塩抜きして食べるのですが、古漬けになっているからしょっぱい! 祖母がよく作ってくれたのを懐かしく思い出します。

また東北は寒暖の差が激しいため、枝豆自身が自己防衛策として産毛を強くしたり、病害虫に対抗するポリフェノールを多く持つなどの個性が出てきます。その地の気候や土壌に合う品種が増えていきました。

二つめは、東北の約8割は中山間地域、つまり山と平地が混在する地域だということ。開けた土地が少ないために、広大な田んぼや畑は作れません。そこでわずかな土地を有効活用して穀物を作り、その畔に豆を植えました。枝豆のことを「あぜ豆」と呼ぶのはその名残です。貴重なタンパク源でもある枝豆は味噌汁の実になり、宮城の「ずんだ餅」など祝いや行事に欠かせない料理へと発展していきます。

さらに歴史を遡ると、縄文の文字が浮かんできます。東北地方に縄文遺跡が多いのは、縄文時代は今より気温が高かったからと言われています。縄文の人たちは東北や北海道、あるいは標高の高い山で暮らし、暑さをしのいでいました。その頃はすでに枝豆の野生種が食用されていたと考えられ、東北の山奥にある歴史の古い村々に、土着の大豆や枝豆が伝わっているのはそのためでしょうか。枝豆の奥に、日本の歴史がつながっているのです。

「ぎふベジ」とは?

岐阜市近郊の5市3町(岐阜市・羽島市・山県市・瑞穂市・本巣市・岐南町・笠松町・北方町)で採れる、安全・安心にこだわり抜いた特産農産物の愛称です。
https://gifuvege.jp

ぎふベジ研究所にて、オンラインシンポジウムを開催しました

日本食文化会議ぎふベジ研究所では、枝豆、大根、柿、トマト、葱の各ラボを立ち上げ、メンバーたちが改めてそれぞれの野菜に向き合っています。この1月、2月にオンラインシンポジウムを開催。
枝豆ラボの様子は下記よりご覧いただけます。
https://www.youtube.com/channel/UC1VjMNG4-XiXGkEVqG57zmQ

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