パルミジャーノ・レッジャーノとクラフトビール 定期便

パルミジャーノ・レッジャーノとクラフトビール

山上昌弘(世界の飲み物研究家、ジャパンビアソムリエ協会会長)

2022.10.3

私が講師を務めたセミナー「パルミジャーノ・レッジャーノの魅力と酒肴ビアペアリング」。削って使われることの多いイタリアチーズの王様パルミジャーノ・レッジャーノを、贅沢にもかたまりでいただきます。熟成期間が異なる3種類を用意。イタリア料理のコースに見立て、前菜から始まる5種類のチーズとクラフトビールのペアリングを愉しみました。

クラフトビールの魅力

クラフトビールに世界統一の定義や法律はありません。現段階のイメージとして、比較的小規模で、ブルワリーのこだわりや世界観が反映された個性的なビールという感じです。

クラフトビールの魅力は、「原材料の多様性や製法の自由な発想によりいろいろな種類、世界観がある」「味やラベルデザイン、コンセプトが個性的」「イベントなどで造り手と会える機会もあり親近感があり、思いを感じ応援したくなる」などがあげられます。

ブルワリーのこだわりやストーリー、ラベルデザインなど、ビールを飲みながらその世界観もお愉しみください。

今回のペアリングで合わせたクラフトビール4種(写真・酒専門誌WANDS)

1:[アンティパスト]パルミジャーノ・レッジャーノ皮のポップコーン風
[BEER]エルディンガー・アルコールフリー(独) Alc 0.4%

前菜にパルミジャーノ・レッジャーノの皮ポップコーン風を。ドイツのノン(微)アルコールビールと合わせます。 パルミジャーノ・レッジャーノの皮部分は固くなっているだけでチーズそのものなので、捨てるのはもったいない。イタリアでは旨みダシがわりにスープに入れるなどして使います。今回は1.5cm程度にカットし、ポップコーン状になるまでレンジで加熱しました。

サクサクした食感のチーズ風味が、すっきりしたノンアルコールビールやピルスナー、ヘレススタイルなどシュワシュワ爽快なビールとよく合います。黒コショウを振るとさらに相性がよくなるのでおすすめ。
※表面の汚れが気になる場合は、濡らした布巾で拭くか、削ってからご利用ください。

左上から、ポップコーン風、パサンボン(小皿)、枝豆山椒アレンジ(スプーン)。左下から、12か月熟成、24か月熟成、36か月熟成。

ここからは3種類の熟成期別パルミジャーノ・レッジャーノをビールと合わせます。

2:[プリモ]12か月熟成パルミジャーノ・レッジャーノ
[BEER]ホワイトエールスタイル バラデン イザック(伊)Alc 5%

最低熟成期間である12か月はフレッシュさがあり、少しミルキー。フルーティで苦味が強すぎないビールと組み合わせることがポイント! イタリア産同士のペアリングはさすがに相性抜群。ヴァイツェンなどまろやかな味わいの小麦ビールと相性がいいです。

3:[セコンド]24か月熟成パルミジャーノ・レッジャーノ&枝豆、山椒、EXVオリーブオイル
[BEER]ニューイングランドIPAスタイル 伊勢角屋麦酒 Neko Nihiki(三重)Alc 8%

24か月は旨みの結晶があり、シャリっという独特な食感があります。フルーティな香りがニューイングランドIPAスタイルのトロピカルなフレーバーと合う!

強い苦みはチーズにとってマイナスの印象を与えるため、ビールの苦みをどれだけ許容できるかが重要です。IPAの中でも比較的苦みが穏やかなヘイジーIPA(濁りのある)、ニューイングランドIPAがおすすめ。それでも苦味が苦手な人は、桃ヴァイツェンやマスカットビールなど苦みの弱いフルーツビールと合わせてみるとよいでしょう。

アレンジ例として、ビールと相性のよい枝豆を加え、実山椒の粉とEXVオリーブオイルをかけたものをワンスプーンで提供。パルミジャーノ・レッジャーノは緑色の食材と相性がよいので、枝豆やソラマメ、皮ごといける白ブドウなど、ぜひお試しください。キュウリを丸かじりしながらのかたまりパルミジャーノ・レッジャーノは、無限ループのおいしさです。

4:[テルツォ]36か月熟成パルミジャーノ・レッジャーノ
[BEER]ドッペルボックスタイル アインガー・セレブレーター(独) Alc 6.7%

凝縮された濃厚な味わいでやや熟成感もある36か月は、ほんのりスパイシー。お値段も高めです。上質なパルミジャーノ・レッジャーノの風味をしっかり味わうために、その風味をサポートするようなパンを添えるイメージでペアリング。液体のパンと呼ぶにふさわしい麦芽風味豊かなドッペルボックスタイルのビールと合わせます。

36か月熟成にはドッペルボックススタイルのビールを合わせて。

そして最後はドルチェ。

5:[ドルチェ]パサンボン
[BEER]抹茶ビア(ビアカクテル) Alc 5%

食後のデザートとして、パルミジャーノ・レッジャーノに和三盆をまぶしたものを。私は勝手に「パサンボン」と呼んでいます。口の中で淡雪のように溶けていく和三盆の甘みの後に、パルミジャーノ・レッジャーノの豊かな風味が広がります。日本とイタリアの伝統食文化が融合した逸品スイーツ、ぜひ一度お試しください。

合わせるのは濃茶用の上質な抹茶を使った抹茶ビアカクテル。茶席では、お菓子の後にお茶をいただきますが、ビアペアリングの場合はご自由に。他にも日本茶やコーヒーを使ったクラフトビールと合わせるのもよいでしょう。

パルミジャーノ・レッジャーノに和三盆をまぶした「パサンボン」には抹茶のビアカクテルを。

改めて、パルミジャーノ・レッジャーノのこと

パルミジャーノ・レッジャーノの基本

イタリア北部の限定生産地域、エミリア・ロマーニャ州の中でもパルマ、レッジョ エミリア、モデナの各県全域とボローニャ県の一部(レノ川左岸)、 そしてロンバルディア州のマントバ県の一部(ポー川右岸)のみで作られます(岐阜県の面積とほぼ同じ)。

パルミジャーノ・レッジャーノが作られる地域。
パルミジャーノ・レッジャーノが作られる地域。パルマ、レッジョ・エミリア、モデナの3県全域と、ボローニャとマントバの一部地域のみと定められている。

名称は、発祥の地とされているエミリア・ロマーニャ州のパルマ県とレッジョ・エミリア県に由来。パルマは生ハムで有名で、レッジョ・エミリアはファッションブランドMax Mara誕生地として知られますが、日本で例えると千葉県と埼玉県で作られる名産物を「チバーノサイタマーノ」と呼んでいるようなイメージでしょうか(笑)。バルサミコで有名なモデナ県、州都であり美食の街ボローニャのあるボローニャ県の一部でも生産されています。 約1,000年の歴史をもつパルミジャーノ・レッジャーノは、酪農を営む修道士たちによって育まれました。多様な草が自生する牧草地、そこに根ざした微生物群、良質な乳酸菌などが独特の風味をもたらします。

原料は生乳と塩のみ。天然の凝乳酵素を加えるだけで添加物や保存料はなし。最低1年、平均2年の長期熟成ハードチーズです。

パルミジャーノ・レッジャーノは、EU圏内ではその英語・フランス語読みであるパルメザンとも呼ばれ、同じ意味で使われていますが、日本で販売されている粉チーズ、通称パルメザンは別物ですのでご注意ください。

パルミジャーノ・レッジャーノの特徴

パルミジャーノ・レッジャーノは熱で溶けやすいので、ボロネーゼなどミートソース系パスタに削ってかけると料理と一体化して、風味を数段アップしてくれます。また、スライスしてサラダやカルパッチョにかけるなど、いろいろな料理に使いやすいチーズです。

今回は、専用の小型アーモンドナイフで割って、かたまりをそのまま愉しむ食べ方をご紹介します。

かたまりのふち、厚みのある所を半分くらいまでナイフを刺してからどちらかに倒すと、割れてざらざらした断面のかたまりができます。ナイフで切るより表面積が増えるからか、香りや風味を数段強く感じます。このかたまりをおつまみとしてお酒といっしょに楽しむのがおすすめ。ぜひお試しください。

専用のアーモンドナイフ。その形がアーモンドに似ていることから。

クラフトビール界で有名な「テクグラス」。ストレートな壁面の形状はグラスを傾けた分だけビールが流れ、喉越し系ビールもスムーズに喉奥へ。飲む時に鼻がいい感じにグラスに入り、アロマをより強く感じることができる。



パルミジャーノ・レッジャーノとビアペリングのポイント

苦すぎるビールは合わせにくい。

フルーティな香り、モルト(麦芽)風味と合わせやすい。

いつものようにビールを飲みたい時は、チーズをしっかり味わった後にビールを飲み、余韻で合わせる。

チーズが口に残っている時にビールを少量だけ口に含むと、混ざった味わい(口中調味)が愉しめる。

パルミジャーノ・レッジャーノと山上さん。

ビアペアリングは自由です。合うか合わないか、最終的には個人の好みと考えています。提案されたペアリングを愉しもうとする気持ちが大切で、正解を探そうとせず、自分でも自由にチャレンジしてみませんか。きっと新たな世界が広がります。

山上昌弘やまがみ まさひろ

総合食品企業で酒・調味料の研究開発に従事後、飲料スペシャリストとして大学などでドリンク教育に携わる。(一社)ジャパンビアソムリエ協会会長、日本食文化会議参与、ハンバーガー世界大会日本代表選考会審査員、日本ドリンク協会会長、ソムリエ、SAKE DIPLOMA農研機構 果樹茶業研究部門 世界茶講師、式正織部流茶道、日本茶・紅茶・中国茶インストラクター、茶健康科学講師。国民文化祭しずおか企画委員、世界一周クルーズ船上講座講師など。著書に『知識ゼロからの日本茶入門』(幻冬舎)、『世界お茶の基本』(プラザ出版、製作監修)ほか。worldbeerculture@gmail.com

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